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2021.08.25

特許翻訳

特許翻訳の落とし穴 エピソード2~「切欠は非切削加工できるか?」事件


1. Nicht in die Falle der Patentübersetzung tappen !

前回に続き、今回も、私が経験した失敗や壁にまつわる翻訳エピソードをご紹介したいと思います。今回ご紹介するエピソード2も、思い込みに起因した事件です。

2.「切欠は非切削加工できるか?」事件 – 切削加工と非切削加工

ドイツ語にAusnehmungという用語があり、これは、凹部、孔、溝など、あらゆる空所系を表す典型的なドイツ語特許用語です。断面形状を問わず広義の概念なので、ぴたりと対応する日本語がなかなか見つからず、なんとなくこの語を「切欠」(きりかき)と訳すのが慣例になっていました。

そんなある日「Verfahren zum spanlosen Einbringen von Ausnehmungen in einem metallischen Körper」という発明の明細書の翻訳を担当しました。私は深く考えもせず慣例通りに「切欠」という訳語を用いて「金属の物体に切欠を非切削加工する方法」と訳しました。そうすると、これまた思わぬ指摘を受けたのです。曰く『「切欠」とは、切り欠くことによってできるものの意味であるから、「非切削加工された切欠」とは、切削加工された切欠をさらに非切削加工されたものとも解され、意味が明確でない。』というものでした。ようは、『切欠とは、切り欠いたものであるから、切欠を非切削加工するというのはおかしくないか?』というものです。私にとってはまさに目から鱗、Es fällt mir wie Schuppen von den Augen(ドイツ語でも同じ表現ですね)でした。

 

3. 謎のドイツ語Ausnehmung

一般に切欠(ノッチ)といえば、軸部に設けたキー溝やピン穴のように断面が急激に変化する部分を意味し、断面は方形、台形、V字、円形などが考えられます。たしかに「切欠」とは読んで字の如く「切って欠く」ものなので、基本的にはこれは切削加工の成せる技なのでしょう。それを「切欠を非切削加工する」と訳したものですから、「切欠をさらに非切削加工したもの」と受け取られてしまうおそれがあるというわけです。

もともとAusnehmungとは、動詞ausnehmenから派生したもので、動詞ausnehmenとは、本動詞nehmen(取る)に前綴りaus(出す、欠く)をくっ付けた分離動詞です。「取って(nehmen)欠く(aus)」という意味なので、必ずしも「切って欠く」というわけではありません。材料をどう取り欠くのかについては、切削加工、非切削加工、エッチング等、手段を問わないのです。そう考えると、「切欠」という切削加工を想起させる表現に翻訳したことは適切とは云えないでしょう。

 

4.「切欠」という用語を使うことに慎重になる切欠?

対象となった発明は、これまで金属部材に対して穿孔加工などの切削加工によりAusnehmungを形成していたものを、これに代えて材料の押しのけなどの非切削加工によりAusnehmungを形成し、チップ発生や冷却剤・潤滑剤の使用を回避する、というものでした。このときはまだ第17条の2第3項のような補正に対する厳しい縛りがない古き良き時代でしたので、代理人を務める担当弁理士さんが明細書全体を通じて適宜補正を行ってくれたので事なきを得ましたが、この事件は、「切欠」という用語を使うことに慎重になる切欠(きっかけ)となりました。

ちなみに東京都あきる野市に「切欠」いう地名がありますが(あきる野市切欠)、こちらはホントに「きっかけ」と読むそうです。

Fortsetzung folgt

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