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2018.09.03
特許翻訳
知的財産翻訳検定1級合格にあたり
2017年の10月にN第25回NIPTAの知財翻訳検定試験が行われ、弊社からは5名の翻訳者が見事に合格を果たしました。そのうち4名は英文和訳、1名は独文和訳の試験に合格しました。ドイツ語試験の合格者は全国で唯一人でした。
合格者には、感想文を執筆してもらいましたので、ここで紹介していきたいとおもいます。弊社の翻訳に対しての取り組みをより分かっていただければ幸いです。前回紹介した小俣浩之さんに続き今回は英文和訳の1級(化学分野)を合格した松本千恵子さんの感想を紹介します。松本さんは、現在、トランスユーロアカデミードイツ語特許翻訳講座初級・化学の講師を務めています。
1.受検に至った経緯
私は、特許翻訳の仕事を始めて15年ほどになります。大学で有機化学を専攻し、卒業後に機器制御ソフトウェアメーカーで数年間SEとして勤務した後、特許事務所に入所しました。特許事務所では、特許翻訳者兼特許技術者として化学分野の独日・英日の特許翻訳と中間処理を担当しておりました。その後現在の翻訳会社に移り、特許翻訳の他、契約書やプレスリリースなど、少しずつではありますが特許以外の分野も担当するようになりました。
私は、現在の翻訳会社に長年勤務しており、他の翻訳会社での勤務やトライアルなどの経験がまったくありません。そこで、社内で長年培った自分の翻訳スタイルや翻訳技能が、いわば外の世界で果たして通用するものなのかどうか一度試してみたいとの思いがあり、受検するに至りました。
2.試験準備
日本知的財産翻訳協会のHPに過去問題が掲載されており、これを解いて試験に備えました。試験の内容は、普段の業務で行っている明細書の翻訳とまったく同じでしたので、非常に取り組み易いものでした。例年、化学分野では大問4つを3時間で解答するという形式で試験が行われるため、ほぼ1時間半で解答し、その後見直しや推敲に1時間ほどかけるという時間配分で行いました。
過去問題に取り組む上で、過去問題と一緒に、標準解答・講評だけでなく、1級合格者の方々の解答も掲載されていることがとてもありがたく感じました。1級合格者の方々の様々な解答を拝見して自分の解答と比べることで、「こんな訳し方もあるのか」、「このスタイルはとても良いので普段の翻訳にも是非取り入れてみよう」といった新たな発見がたくさんあり、非常に勉強になりました。
また、過去問題では出題分野が多岐にわたっていたため、普段の業務の中で苦手意識を持っている分野をいくつかピックアップし、関連する企業の技術解説サイトに目を通して技術の概要を確認しておきました。
一通り化学分野の過去問題を解いた後、まだ受検まで若干の期間があったため、化学以外の分野の過去問題の講評にもいくつか目を通しました。その中でとても感銘を受けたコメントがいくつかありましたので、以下に引用させて頂きます:
「翻訳者は語り部です。機械ではありません。自分が見聞きしたストーリーを噛み砕いて消化し、それが聞き手の耳と心に届くように自分の言葉で届けてあげるストーリーテラーなのです。」(第15回知的財産翻訳検定1級/機械工学講評)。
「常に技術的ロジックを追いながら翻訳して下さい。特許翻訳は探偵が犯人捜しをするようなものです。見た目の文章にだまされずに正確に犯人を「逮捕」して下さい。」(第25回知的財産翻訳検定1級/電気・電子工学講評)。
これらはいずれも、特許翻訳の真髄を表したものではないかと思います。まさに自分が日々の業務の中で重要だと実感していることそのものでしたので、非常に共感するとともに、これからもこのような気持ちをもって業務にあたろうと決意を新たにしました。
3.試験当日
大問4つを3時間で解答するという例年通りの出題形式であったため、落ち着いて受検することができました。出題分野としては、これまでに扱ったことがあったためなじみのあるものでしたが、思ったよりも推敲に時間がかかり、提出は試験終了時刻間際となってしまいました。
今まで扱ったことのない分野に出会った場合、普段の業務ではじっくりと時間をかけて関連書籍や技術解説サイトをあたる余裕がありますが、本検定ではそうした時間はありません。翻訳技術だけではなく、適切な検索キーワードを入力して検索結果の中から確実性の高いサイトを選択して、目的の訳語にいかに「素早く」たどりつくことができるか、という検索能力も重要であると感じました。
私は、普段の業務では、正確性はもとより、「ただでさえ長く難解な文章である明細書のストーリーを、いかに読み手に伝わるように翻訳するか」という点を非常に重視しております。本検定の受検にあたっても、いつも通り、誤訳がないかという点だけではなく、「この訳文で、果たして書き手の意図が読み手に正確に伝わるか?」という点にも十分に配慮して解答することを心掛けました。
4.試験を終えて
受検後に、合否の結果だけでなく、試験委員の先生方から個別にコメントを頂くことができました。その際、単に問題のあった点について「もっとこうした方がよい」といったご指摘を頂いただけではなく、「この部分はとても良い翻訳だったので加点しました」など、良かった点についてもコメントを頂けたことが非常にうれしく、大変励みになりました。
自分が普段重視している「読み手に伝える」ための翻訳上の工夫とは、いわば「読み手へのサービス」でもあり、これを心掛けて作成した訳文について評価して頂けたことを、非常にうれしく思っております。
5.1級合格の結果の活用
今回、社内の受検奨励制度を利用して合格判定を頂いたことから、この1級合格の結果が、今後、自分のためだけでなく、もっと広がりをもった形で会社全体のために活用されていけたら良いと考えております。
6.今後の展望
特許翻訳では、語学、技術知識、法律知識の3つが必要であり、どれをおろそかにしても適切な翻訳は行えません。また、特に日々進化する技術に対応できるよう、常に最新の知識を得る努力も怠ることはできません。
現状に満足することなく、より正確でより読み易い翻訳をより速くお客様にご提供できるよう、これからも日々研鑽を積んで参りたいと思っております。
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