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2021.08.02
通訳
バイリンガル社員は通訳ではありません
いくつかの理由から、二か国語以上を話せる人に対して共通の誤解があるように思われます。例えば、多くの人は、「二か国語を話せる人」=「通訳ができる人」と決めつけているようですが、そう考えるのは大間違いです。この記事では、バイリンガルの社員に通訳を頼むことがなぜグッドアイデアとは云えないのかをご説明いたします。
1. 通訳者になるには特別な訓練が必要
外国語の会話を学んだとしても、それは通訳の技術を学んだことにはなりません。言語を学ぶ際には、文法・語彙・発音などを習得すると思いますが、確かにその言語を理解したり話したりするにはそれで十分でしょう。しかしながら、通訳者にはそれ以上が求められます。通訳者にはマスターしなければならない幾つかの技術があります。例えば、逐次通訳にとって、ノートテイキングや記憶術は重要なスキルです。逐次通訳者は、時には数分間に及ぶ会話のチャンク(文節)を通訳しなければならないからです。同時通訳者の場合は、聞くと同時に話すことができなくてはなりません。そのためには、話者が何を言おうとしているのかを予測し、それに応じて統語構造をアジャストさせなければいけません。同時通訳者は高いストレス耐性を持たなければならず、また同時通訳の業務は極めて過酷なので、同時通訳者の連続通訳可能な時間は通常は数分間です。
ここまでで、特殊な訓練なしに通訳をすることは不可能に等しいということをイメージできたかと思います。大学によっては通訳のためのコースを備えており、学生は通訳のスキルを数年かけて学び、練習を重ねます。以下の記事では、ドイツで通訳者になるにはどうしたらいいのかを詳しく説明していますのでご参考までにあげておきます。
2. 通訳者が負う責任
通訳者にはある程度の責任が発生します。通訳のミスは分野によっては甚大な問題を引き起こします。例えば、医療通訳がその例です。これについては、過去の記事で、バイリンガルの病院スタッフが言葉の訳し間違いをして、誤った処置により患者に生涯にわたるダメージを残した事例をご紹介しましたのでご参照ください。
確かにこのケースは極端な事例かもしれませんが、場面によっては小さなミスが大きな影響を及ぼすことがあり得ます。プロの通訳者は一般的に、通訳ミスによって生じる損害をカバーするために保険に入っています。プロではないバイリンガルの社員が通訳ミスをしたときには、通訳を頼んだあなたが損害を補う責任を負うことになるでしょう。
3. バイリンガルの医師も通訳者ではない
今年の初めに “Sage Journals” に掲載された人類学の研究論文ではアメリカの病院でラテン系の女性たちが医師や看護師といった本来の仕事のほかに、通訳としての仕事をこなすように頻繁に要求されていることが示唆されています。彼女たちが通訳は自分の仕事ではないと弁明すると、同僚からの評価に支障が出るとのことです。
医療ミスが起こり得るという致命的な結果を考えると、彼女たちが拒否する理由も良くわかります。医師であれば、患者を危険にさらすような行為は決して行いたくないでしょう。また、医師であることはそれだけで十分ストレスのかかる仕事ですので、業務にそれ以外の仕事を入れる必要はありません。
この記事をお読みになって、なぜバイリンガル人材=通訳者ではないのかがお分かりいただけたでしょうか。アメリカの病院のスタッフのようにならないように、そして同僚が正しい行動をとり、訓練を受けていない仕事を拒否したとしても、決して同僚を見下したりしないように気をつけしましょう。無理をせずプロの通訳者を雇用しましょうね。
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