スイスが舞台となった名作映画

 

皆様は映画を鑑賞する際、「これってどこで撮影したんだろう?」と、映画の舞台となった場所が気になって、そこに行ってみたいと思ったことはありませんか?

私自身はファンタジー冒険映画の代名詞であるロード・オブ・ザ・リング(The Lord of the Rings)に登場する数々の舞台に感銘を受け、そのロケ地がニュージーランドだったことを知って以来、死ぬまでに一度はニュージーランドを訪れて撮影現場となった場所を実際に見てみたいという目標を立てました。

それから既に20年以上が経過し、残念ながら未だに目標を達成できていません。

しかし、いつかは必ず念願のニュージーランド旅行を実現させる思いで日々頑張っております。

このように、私の場合はとある映画をきかっけに将来の目標を決めましたが、近年では映画のみならず、ドラマやアニメの舞台を訪問する「聖地巡礼」と称されるロケ地巡りを行う観光客も増えていることから、世界中で同様な気持ちを抱いている人が相当いるのが窺えます。

したがって、読者の皆様の中にもそのような方が一定数いる筈で、訪れてみたいロケ地がスイスにあるという人が最低でも1人ぐらいはいるのではないでしょうか?

特に、人気アニメで知られる「アルプスの少女ハイジ」を観ていた世代なら画面上に広がる世界に魅了され、一生に一度はスイスに行ってみたいと願った視聴者も少なくありません。

とはいえ、スイスが舞台となっている作品は決してハイジだけではなく、他にもスイス各地の場所が映る様々な映像コンテンツがあります。

そして、ストーリー上その作品または一部シーンの舞台がスイスであることが明らかな場合がある一方、景色を観ただけではスイスで撮影されたという事実が分かりづらいケースもあります。

割合で言えば、むしろ後者の方が大半を占めるので、殆どの視聴者はロケ地がスイスであったことを認識しないまま作品を鑑賞していることが多いです。

そこで、今回は皆様もよくご存知だけど、撮影現場がスイスだったことを意外と知らない世界的に有名な映画をご紹介させていただきます。

 

独特の世界観を表すためにベルンアルプスを取り入れたSF超大作

 

まず、最初にご紹介したいスイスが登場する作品はSF映画の最高峰と謳われ、その名前を知らない人はいない「スター・ウォーズ」(Star Wars)です。

「スター・ウォーズ」は1977年に第1作目が公開されて以来、現在までに3つのトリロジーに加え、サブストーリーが描かれているアンソロジー映画3作、アニメーション、実写ドラマなど数々のコンテンツを世に送り出し、その独特の世界観と個性豊かなキャラクターで世界中を熱狂の渦に巻き込んだ名作シリーズとして知られています。

そして、シリーズ開始から既に50年弱が経った今でもその人気は衰えることなく、グローバル規模で熱烈なファン層を誇り、日本でも多彩なグッズ、おもちゃ、ならびにコラボ商品を始め、ハロウィーンの時期にはほぼ100%の確率で登場人物のコスプレをしている人を目撃するほどです。

さらに、作中で度々耳にする名セリフ「フォースと共にあらんことを」(May the Force be with you)は今や映画を観たことがない人の間でも広く知れ渡っています。

そんなスター・ウォーズですが、各作品の一番初めに流れるイントロにもあるように、「遥か彼方の銀河系」で架空の惑星を舞台に繰り広げられる銀河戦争のお話であるため、本来であればCGや映画セットを使用し、地球上に実在する場所は基本的に登場しない筈です。

ましてや、スイス各地で目の当たりにする特徴的な山々などが作中で使用されるなんてあり得ないと思っている方も多いのではないでしょうか?

しかし、そのまさかがスター・ウォーズでは行われたのです。

エピソード3で僅か数シーンだけ画面に映るレイア姫の故郷である惑星オルデラン(Alderaan)の山岳風景にはなんとベルン州(Kanton Bern)のアイガー山(Eiger)の麓に位置し、観光地として有名なグリンデルヴァルト(Grindelwald)の山景色が使われました。

しかも、名山シュレックホルン(Schreckhorn)が逆さでバッハアルプ湖(Bachalpsee)に映ることで毎年多く観光客が訪れる絶景スポットまで作中に登場するため、地域住民にとっては地元の風景が、世界中の人々が観た名作映画に採用されたことが今では何よりの自慢です。

 

スター・ウォーズシリーズに登場する惑星オルデランの山岳風景に採用されたベルン州グリンデルワルトにある名山シュレックホルンとその周辺の山々

 

 

世代を問わず世界中の人々を虜にした名作のスピンオフにもスイスが登場する

 

さて、グリンデルヴァルトという地名が出てきましたが、皆様はスイスの観光地以外に、その名前をとある映画で聞いた覚えはございませんか?

記憶を辿れば、「ファンタビ」の愛称で知られる「ファンタスティック・ビースト」(Fantastic Beasts)に登場する悪役が「ゲラート・グリンデルバルド」(Gellert Grindelwald)という名でしたよね?

ご存知の通り、「ファンタスティック・ビースト」は世代を問わず世界中の人々を虜にしたJ・K・ローリング(J. K. Rowling)が生んだ「ハリー・ポッター」(Harry Potter)シリーズのスピンオフで、現在までに計3本の映画が上映済みの中、続編の公開が待望されています。

そんな世界的な超人気シリーズで闇の魔法使いとして登場する「ゲラート・グリンデルバルド」の由来となったのは、当然ながら先ほど言及したスイスの地名です。

しかし、ファンタビではスイスの自治体名が使用されただけでなく、いくつかのシーンもスイスで撮影されました。

例えば、第2作目である「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」(Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald)の終盤には、魔法界の牢獄ヌルメンガード城(Nurmengard)が映る場面があります。

ストーリー上、ヌルメンガードはオーストリアに位置するとされていますが、実際の撮影現場はベルン州にあるラウテルブルンネン(Lauterbrunnen)でした。

城自体は実在しないことからCGで挿入されているものの、それを囲む雪山はラウテルブルンネン東部に聳える山シュヴァルツメンヒ(Schwarzmönchの頂上付近です。

また、映画の後半で山の岩壁が破壊されるシーンでも、ラウテルブルンネンのシュテッヘルベルク地区(Stechelberg)から見上げた際のシュヴァルツメンヒの中腹が採用されました。

 

「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」で岩壁が破壊されるシーンが撮影されたラウテルブルンネン(シュテッヘルベルク地区)から見えるシュヴァルツメンヒの中腹

 

63年間愛され続けている映画界の金字塔でスイスは何度もロケ地になっている

 

これまでは比較的新しい作品を採り上げさせていただきましたが、スイスがロケ地として起用されるようになったのはもちろん最近の話ではなく、相当昔から行われてきました。

その長い歴史を象徴する代表作であるのが、「007」でもお馴染みの「ジェームズ・ボンド」(James Bond)シリーズです。

「ジェームズ・ボンド」とはイギリスの作家イアン・フレミング(Ian Fleming)が1953年に生み出したスパイ小説群、ならびにフレミングの死後に複数の作家が執筆した数々の続編の主人公で、それらの原作を基に制作されたスパイアクション映画シリーズを指します。

1962年に第1作目が登場して以来、現在までの60年余りで全27の作品が公開され、世界的にも類を見ない映画界の金字塔です。

そんな名シリーズでスイスが舞台となったのは第3作目の「007/ゴールドフィンガー」(Goldfinger)です。

同作では悪役が所有する会社がスイスにあるという設定で、ボンドがそのアジトを特定するために発信器を取り付けた車を追跡するシーンは、ウーリ州(Kanton Uri)アンデルマット(Andermatt)フルカ峠(Furkapass)で撮影され、悪役の会社とされる建物や敷地にはニトヴァルデン州(Kanton Nidwalden)の州都シュタンス(Stans)に実在する「ピラトゥス飛行機製作所」(Pilatus-Flugzeugwerke)の社屋が使用されました。

とはいえ、スイスが撮影現場となったのは本作だけではなく、実はそれ以降の作品でも度々登場します。

例えば、第7作目の「女王陛下の007」(On Her Majesty’s Secret Service)ではグリンデルヴァルトのスケートリンクやミュレン(Mürren)のボブスレーコースを始め、シルトホルン(Schilthorn)の頂上に建つパノラマレストランが悪役の研究所に採用されるなど、ベルン州のユングフラウ地方(Jungfrau-Region)の様々な場所がロケ地となりました。

それ以外にも、第11作目の007/私を愛したスパイ」(The Spy Who Loved Me)ならびに第16作目の007/美しき獲物たち」(A View To A Kill)には、それぞれ007のスリリングなスキーチェイスシーンがあり、それらが撮影されたのはいずれも高級リゾート地で有名なサン・モリッツ(St. Moritz)近辺にあるゲレンデと氷河でした。

そして、忘れてはいけないのが何と言っても、1995年に公開された第19作目「ゴールデンアイ」(GoldenEye)で、007がオープニングでダムから飛び降りる迫力満点のバンジージャンプシーンです。

作中では当ダムがソビエト連邦に位置する化学兵器工場の一部とされていますが、撮影場所に使用されたのはスイス南部のティチーノ州(Canton TicinoまたはKanton Tessin)にあるコントラダム(Diga di Contraでした。

スクリーンに映るバンジージャンプは映画史上最高のスタントとして表彰されこともあって、上映から30年が経過した現在も、そのシーンを自ら再現しようと毎年世界各国から大勢の観光客が訪れるほどです。

 

「ゴールデンアイ」のオープニングで007が天端からバンジージャンプして敵地に侵入したシーンの撮影場所となったコントラダム

 

世界190カ国で配信され、スイスでの聖地巡礼ブームを引き起こした超人気韓流ドラマ

 

このように、多様なジャンルと様々な時代に制作されたハリウッド映画にスイスが登場することをご理解いただけたかと思いますが、アメリカのみならず、他の国の制作会社もロケ地としてのスイスに目を付けているのは言うまでもありません。

認知度がさほど高くないことから、インド映画は今回採り上げていないものの、かなりの数のボリウッド作品においてもスイスが撮影現場となっていました。

また、近年急成長している中国映画や韓国映画も膨大な費用を掛けて映像制作に取り組んでおり、中には当然ながらスイスを舞台にした作品もございます。

その代表例とも言えるのが、2019年12月からNetflixで放送が開始された韓流ドラマ愛の不時着」사랑의 불시착Crash Landing on Youです。

韓国の財閥令嬢がパラグライダーで誤って北朝鮮に不時着し、そこで出会った軍人に救助されて彼と恋に落ちるというお話になっている本ドラマは計190カ国で配信され、日本でもユーキャン新語・流行語大賞2020のトップテンに選ばれた大ヒット作として知られています。

したがって、読者の中にもそれを観た方が少なくはないでしょうし、スイス各地が頻繁に画面に映ることも既にご存知かと思います。

というのも、ドラマのオープニングで主人公とヒロインが公園を歩いている場面があり、その現場だったのは、チューリッヒ中央駅の近辺に位置する高台リンデンホーフ(Lindenhof)でした。

また、アウグスティーナー通り(Augustinergasse)ミュンスター橋(Münsterbrücke)に加え、スイスの特産品を取り扱うお土産屋さんの「シュヴァイツァー・ハイマトウェルク」(Schweizer Heimatwerk)も作中に登場し、チューリッヒ市内だけでも様々なシーンが撮影されました。

しかし、愛の不時着に関してはそれに留まらず、ユングフラウヨッホ(Jungfraujoch)を始め、ベルン州南東部においても多数の場所がロケ地となったのです。

特に、主人公がヒロインと運命的な出会いをした、ベルンアルプスを一望できるスィグリスヴィール(Sigriswil)パノラマ橋(Panoramabrücke)や、主人公が留学中に通っていた音楽学校として使用されたブリエンツ市(Brienz)グランドホテル・ギースバッハ(Grandhotel Giessbach)は視聴者の記憶に焼き付くほど印象的な映像を提供した現場でした。

そして、合成ではないかと疑ってしまうぐらい美しい景色を背景に、主人公が桟橋でピアノを弾いているシーンが撮影された場所は、誰しもが気になったのではないでしょうか?

今ではインターネット上で聖地巡礼ツアーを実施する旅行社や個人のブログなどでも紹介されていることから、それがブリエンツ湖(Brienzersee)の南岸に位置するイセルトヴァルト(Iseltwald)の船着場だったとの情報が広まっていますが、愛の不時着が配信されるまではスイス人にもさほど知られていない秘境でした。

したがって、愛の不時着はスイス在住者を含め、世界中の人々にスイスを観光地として再認識させただけでなく、スイスでロケ地巡りという観光スタイルが注目されるきっけにもなった作品であると言えるのです。

 

愛の不時着で主人公がピアノを弾いている桟橋があるイセルトヴァルトの湖畔

 

今回は過去に一度もネタにしなかった映画についてのお話でしたが、楽しんでいただけましたか?

ご紹介した通り、スイスがロケ地として使われてきた歴史は長いだけでなく、ジャンルに関してもアクションやロマンスからフィクションまで実に様々です。

そのため、皆様が好きな作品の中にもきっとスイスが登場するものがあり、その撮影現場となった場所を訪れてみたいと考えている人もいるのではないでしょうか?

また、「愛の不時着」でも申し上げたように、聖地巡礼は今やスイスでも大変人気の観光スタイルとなっていることから、映像コンテンツを基に旅行を計画する方も大勢います。

言い換えれば、スイス自体にさほど興味がなかった人でさえ、今ではスイスを訪問することに対して意外と積極的です。

特定の場所に行くきっかけや目的は昔から人それぞれですので、それが例え一冊の本や漫画であっても構いません。

重要なのは旅行先での過ごし方で、最も理想的なのは交流を通じた対人関係を築くことや、消費による金銭的な貢献などで自身と同時に現地住民も満たされる方法と言えます。

しかし、最近オーバーツーリズムとの関連で話題になっているマナー違反を始め、色々な迷惑行為は全くの逆効果であるため、皆様も現地住民に歓迎される旅行者になるよう心掛けていただければ幸いです。

では

Bis zum nöchschte mal!

Birewegge


今回の対訳用語集

日本語 標準ドイツ語 スイスドイツ語
撮影する aufnehmen

(アウフネーメン)

uufnäh

(ウーフネー)

冒険 Abenteuer

(アーベントイアー)

Abentüür

(アーベンテュール)

視聴者 Zuschauer

(ツーシャウアー)

Zueschauer

(ツエシャウエル)

名作 Meisterwerk

(マイスターヴェアーク)

Meischterwerch

(マイシュテルヴェルフ)

熱烈 leidenschaftlich

(ライデンシャフトリッヒ)

liideschaftlich

(リーデシャフトリフ)

社屋 Firmengebäude

(フィアーメンゲボイデ)

Firmegebüüdi

(フィルメゲビューディ)

スクリーン Leinwand

(ラインヴァント)

Liinwand

(リーンヴァント)

表彰する auszeichnen

(アウスツァイヒネン)

uuszeichne

(ウースツァイフネ)

上映 Filmvorführung

(フィルムフォアーフュールング)

Filmvorfüerig

(フィルムフォールフュエリク)

(シーンを)再現する nachstellen

(ナハシュテレン)

nahschtelle

(ナーシュテレ)

 

参考ホームページ

ブリック新聞:「ハリウッドに欠かせないスイスにおける15の撮影現場」:https://www.blick.ch/people-tv/kino/15-schweizer-drehorte-ohne-die-hollywood-nicht-auskommt-id15113913.html

公的法人スイス観光:「スイスは最高の映画だ」:https://www.myswitzerland.com/de/erlebnisse/staedte-kultur/listicles/die-schweiz-ist-grosses-kino/

スイス放送協会:「ジェームズ・ボンドからボリウッドまで:映画のスクリーンに映ったスイス」:https://www.swissinfo.ch/ger/kultur/von-james-bond-bis-bollywood-die-schweiz-auf-der-kinoleinwand/77021831

バルマーズ・ホステル:「愛の不時着:インターラーケンの近辺で撮影されたネットフリックスドラマ」:https://www.balmers.com/de/crash-landing-on-you-a-netflix-serie-filmed-near-interlaken/

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