ドイツ語の付加疑問詞
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こんにちは。皆様素敵なクリスマスを過ごされたでしょうか?
このブログも今年の夏に書き始めて第四回目を迎えることとなりました。
私のドイツ語をめぐる経験談を、専門であるドイツ語諸言語学の観点から専門的になりすぎないくらいに記事として書き、興味をお持ちの皆様にこうしてお伝えするのはとても楽しく、読んでくださった知り合いの方々からも「これからも楽しみにしているよ!」と、たくさんの温かい声をかけていただいております。本当に励みになります。ありがとうございます。
さて、今回は「ドイツ語の付加疑問詞」というタイトルで、ドイツ語の地域表現の多様性について再び触れつつ、日本語の類似表現の地域性についても私の経験を織り交ぜてお話ができればと考えています。
「ドイツ語の付加疑問詞」と言われても、あまりピンと来ない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
少なくとも私は文法事項としてドイツ語の付加疑問詞というものを学びはしませんでした。
実際どういうものなのかを、私がクリスマスの時に家族とした会話を例に簡単にご紹介したいと思います。
今年のクリスマスは、夫の弟が住むベルリンで過ごすことになりました。
夫の弟が料理を作ってくれる代わりに、私たちは飲み物を持っていくことになりました。
私たちはワインが好きなのですが、夏に夫が友人と一緒にプファルツで買ってきたワインを何本が持っていくことになりました。
夫の弟の家に着き、持ってきたワインを夫の弟に見せると、
„Danke schön, der war aber bestimmt teuer, wa?“
「ありがとう、でもこのワイン高かったでしょ?」
と、申し訳なさそうに言いました。
それに対し夫は、
„Es geht eigentlich. Außerdem trinkst du auch gerne Weißwein, oder?“
「そこまででもなかったよ。それに君も白ワイン飲むの好きだよね?」
と、答えました。
日本語だと「〜だよね?」「〜じゃない?」に当たるような口語表現で、実際に会話の中で聞いたことある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本語でもニュアンスがつかみやすいので、ドイツ語の会話に慣れてきた学習者の方々が使いやすい表現でもあると思います。
この表現、実は日本語同様に地域による多様性がかなりあります。
„oder?“, „ne?“, „wa?“, „gell?“
見出しの中でも„oder?“は、どちらかといえば標準的な表現であり、下記参考資料として掲載しているリンクの言語地図を見ても様々な地域で確認できます。
実際、ドイツ語ネイティブの方が英語を話す時に、おそらくこの„oder?“からの直訳的な表現なんだろうな、と予想することができる付加疑問的な„or?“が発話の中に見られることがあります。
二つ目の„ne?“は、ケルンやデュッセルドルフといった西部、また、ハンブルクやハノーファーといった北部地域でよく使用されることが地図から分かります。
この„ne?“は、実は私が特に日本人のドイツ語学習者の皆さんのドイツ語発話の中で興味深く思い観察してきた表現ですが、なぜかというと、ニュアンスの上でも、また、音の面でも日本語の「だよね?」との親和性があるからなのか、日本人の学習者にとっては非常に吸収しやすいようで、学習者の皆さんとの会話の練習をすると頻繁に耳にするからです。
学習者の皆さんが教科書のドイツ語から飛び出し、口語表現を身につけるようになっていくのを見るのは、教えるという立場にあることが多い私としてはとても嬉しい経験でもあります。
この„ne?“は„nicht“に由来し、実際„nich(t)?“や„nicht wahr?“もわずかに言語地図上で確認ができます。
私もドイツに来てから聞くようになり、実際自分が無意識のうちに使うようになった表現が„wa?“と„gell?“です。この二つの表現は、地域性が特に強い表現で、前者はベルリンを中心とした北東部、後者は南部で広く使用されるバリエーションなのですが、この二つについては、私のドイツ語使用の中でとりわけ面白い経験をしている表現です。
というのも、私がドイツに来た当初はハイデルベルクに住んでいたのですが、シェアハウスで一緒に住んでいた同居人や大学の友人と話す中で、この地域で使われる„gell?“を身につけていきました。
なので、ドイツに住んで最初の数年は、標準ドイツ語を話し、„gell?“を「田舎っぽい」とまで言ってくる夫に嫌な顔をされても、この表現がしっくりくるしそもそも口をついて出るのが„gell?“でした。
ところが、転職しベルリン出身の同僚と毎日インテンシブに関わり、プライベートでも時間を過ごすようになると、私のWortschatzだったはずの„gell?“がその同僚が使う„wa?“に押されていくようになり、おそらくドイツネイティブの人たちからすると奇妙に感じられるかもしれませんが、南部の表現である„gell?“と北東部の表現である„wa?“が私の中で共存するようになったのです。
今住んでいるのは南ドイツで„gell?“の地域ですが、未だに両方の表現、そしてときどき„ne?“や„oder?“を無意識に使うというような状態にあります。
日本語でも似たような経験
実は日本語でも、似たような経験を似たような表現でしたことがあります。
すでにお話しした通り、日本語の口語にも似たような表現が地域的な多様性を持って存在します。
私は東京出身なのですが、大学院時代を3年ほど京都で過ごし、関西の日本語の中で日常生活を送ってきました。
自分の研究室には関西出身の方々も多く、研究室外でも様々な人と知り合う中で、色々な関西の表現をシャワーのように浴び自然と学ぶことができました。
しかし、そうは言っても私は生まれた時から標準語の中で育ち、私の日本語は完全に標準語だったので語彙が入れ替わるということはほとんどなく、どちらかと言えばイントネーションや語尾の面で影響を受けることになりました。
その結果、私の日本語は今でもいわゆる「エセ関西弁」のような日本語なのですが、関東で使われる「〜じゃん」がときどき「〜やん」になったり、「〜だよね?」が「〜やんな?」「〜やんね?」になったりします。
この表現を使っている時、ドイツ語同様に完全に無意識で自分にとってはしっくりくるものなのですが、自分の経験や環境の変化により自分の日本語が関西の人にも関東の人にもない色を持つようになったのだと考えると、私だけの宝物を見つけたような気持ちになり少し嬉しくなります。
自分の言語使用を観察するということは、自分のこれまでの道のりを振り返ることにも繋がります。
そして、今後もどんどん変化していく可能性があります。
こういう風に話さないといけない、という価値観が優先される場ももちろん社会の中にはあると思いますが、そればかりに囚われすぎず、考察して「どこでこんな表現学んだんだろうか?」と辿ってみることで、自分や他者が持つことばの面白さに気づいてもらえることもあるのかな、と思います。
参考資料
https://www.atlas-alltagssprache.de/runde-2/f19a-b/
日本でドイツ語言語学を専門に修士号をとったのち、ドイツへやってきて7年が経過しました。ドイツ語と日本語を日常で使いながら生活する中で気づいたことばに関するお話を、言語学の専門知識を織り交ぜながらこのブログの中でお伝えできればと思います。
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