遅延問題に立ち向かうドイツ鉄道、抜本的な改革をスタート

 

「また電車が遅れている」——これは、ドイツでよく耳にするフレーズです。

日本の鉄道の正確さに慣れていると、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn、略称DB)の遅延の多さは、カルチャーショックかもしれません。

実際、2023年のDBの長距離列車の定時運行率64%に留まりました。これは、3本に1本以上の列車が、予定時刻から6分以上遅れて運行していたことを意味します。

悪名高きドイツ鉄道ですが、遅延状況は年々悪化しているそうです。

なぜこれほどまでに遅延が常態化してしまったのでしょうか。

 

ドイツ鉄道の現状

 

2023年のDBにおける定時運航率は64%でしたが、2024年上半期はさらに62.7%にしか達せず、過去最低の数字を記録してしまいました。

2024年初頭の目標においた定時運航率70%という数字を達成することは難しく、その目標値を取り下げるほど状況は深刻のようです。

この状況をドイツ周辺国と比べると、フランス、イタリアなどはそのイメージとは裏腹に定時運航率が高く、フランスでおおむね80%以上イタリアでの2023年上期で80.2%となっています。

スイスに至っては92.5%で、ドイツと比べて30%も高い数字を保っています。

また今年のDBの時刻表の変更は、200万回から300万回にも及んだとの調査もあり、現状は悲惨な限りです。

 

 

 

 

遅延の背景にある構造的な問題

 

周辺国との定時運航率の落差に関しては、国土の大きさや地形の違いに起因する点もありますが、DBの遅延の大きな原因となっているのはインフラの老朽化です。

修繕が必要な鉄道橋も多く、信号機の故障、信号ボックスの故障、ポイントの破損が相次ぎ、列車のスムーズな運行がほとんど不可能になっており、安全性を確保するための速度制限が随所で実施されていることが要因となっています。

さらに、DBの鉄道網の特徴として、貨物列車と旅客列車が同じ線路を共有していることも、定時運行を難しくしている要因の一つです。

一度遅延が発生すると、その影響が連鎖的に広がってしまうのです。

 

 

こうした状況を打開するため、DBは2024年から大規模な改革プロジェクト「Neues Netz für Deutschland(ドイツの新しいネットワーク)」を開始しました。

2030年までに、旅客・貨物輸送の中核となる新しいネットワークの開発を目指し、40の主要路線、合計4,000km以上の路線を全面的に改修するというものです。

これまでは部分的な補修工事を行いながら運行を続けていましたが、新しい計画では主要路線を完全に閉鎖し、集中的に改修工事を行うという大改革が計画されており、すでにフランクフルト~マンハイム間での工事が始まっています。

また、デジタル信号システム(ETCS)の導入も進んでおり、列車の位置をリアルタイムで把握し、より効率的な運行管理が可能になるとのことです。

DBは2027年までに総額約860億ユーロを投資し、2025年までに長距離列車の定時運行率を80%まで引き上げることを目標に掲げているようです。

 

しかしこの大規模改修プロジェクトには批判も多く、特に、フランクフルト~マンハイム間での5か月間にわたる完全運休による影響は多大で、代替ルートは容量が限られているため、物流企業や一般乗客からの不満が高まっています。

一方で、DBはこの改修を長期的なインフラの改善として捉えており、ドイツ全体の鉄道網にとってもプラスの影響があると考えているようです。

 

ドイツ鉄道の大改革は吉と出るか凶と出るか、しばしその行方を見守りましょう。

 

 


参考HP

 

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