スイスドイツ語講座その14:地名の呼び方
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皆様は地名の呼び方を間違えたという経験をされたことはございますか?
日本で生活していれば、呼び方以前に地名の読み方が分からず困ってしまうことが多々あると思います。
特に北海道では当て字が使用されている地名の割合が多く、既に知っている名前でなければ正しく読むことがほぼ不可能ですが、比較的簡単な文字しか使わない「三田」であっても「ミタ」なのか「サンダ」なのか見分けが付きません。
さらに、私自身は沖縄県にある慶良間諸島国立公園にある阿嘉島の北浜ビーチを、実は「ニシハマビーチ」と読むことを知った際には、ただただ大きなはてなマークが脳みそを埋め尽くしました。
音読みと訓読みが混同していたり、当て字が用いられていたりする場合でも何らかの関係性が見出せますが、「北」という方角を「西」に変えられたら流石に理解に苦しみます。
とはいえ、よくよく考えればスイスの地名に関しても文字通りの読み方をしないケースは、意外と頻繁に見受けられるので、スイス人が日本の地名をとやかく言う筋合いはありません。
そこで、今回はそんな少し理不尽でありながらも日常で度々目にする地名の呼び方問題についてのお話をさせていただきたいと思います。
「チューリッヒ」ではなく「ツュリ」と言え!
スイスの地名の呼び方を語る上で、真っ先に挙げなくてはならないのは、何と言ってもスイス最大の都市であり、空の玄関口として大半の観光客が最初に訪れる「チューリッヒ」です。
チューリッヒはドイツ語アルファベットで「Zürich」と表記して、標準ドイツ語でそれを正しく読めば「ツューリヒ」と発音します。
ところが、スイス人の中で「ツューリヒ」という呼び方をする人は1人もいないのが現状です。
ドイツ語では発音が多少難しい文字の組み合わせはあるものの、「Zürich」に関しては百歩譲っても「ツューリヒ」としか読めないので、逆にそれ以外の呼び方が本当にあるのかと聞きたくなりますよね?
正解はなんと語尾の「ヒ」ならびに伸ばし線を省略した「ツュリ」(Züri)なのです。
標準ドイツ語とスイスドイツ語を比較すると語尾が省略されることは決して珍しくないのですが、「ツュリ」の場合は特定の法則に従っている訳ではありません。
というのも、チューリッヒについては中世以降に「ツューリヒ」(Zürich)や「ツュルヒ」(Zürch)など文書で使用する綴りに様々なバリエーションが存在したため、呼び方においても複数の選択肢がありました。
その中でスイス全土に一般的な呼称として広まったのが「ツュリ」だったとのことです。
したがって、標準ドイツ語の読み方に応じて「ツューリヒ」と発音することも間違いではないものの、その言い方は地元住民から極端に嫌がられて指摘される傾向があります。
観光客や出張でチューリッヒを訪れると大半の方は大目に見てくれるのですが、留学や赴任などで一定期間現地で生活すると、チューリッヒ人から早かれ遅かれ「いい加減にツューリヒは止めて、ツュリと言え!」という洗礼を受けるのが恒例行事です。
「サンクト・ガレン」じゃなくて「サンッガレ」ね!
次にご紹介したい表記と呼び方が異なるスイスの地名は東スイスの中心地を担っている「サンクト・ガレン」(Sankt Gallen)です。
過去のスイスドイツ語講座を熱心にフォローしていただいた読者様なら、もうある程度の目星が付いていて、語尾の「n」が省略される傾向があることにお気付きでしょう。
そのため、「サンクト・ガレン」はスイスドイツ語で当然ながら「サンクト・ガレ」になります。
しかし、このレベルの違いを私がわざわざ今回の記事で採り上げると思いますか?
とは言いつつも、本段落の見出しに書いてしまっているので正解は既にお分かりですね。
「サンクト・ガレン」はスイスドイツ語でなんと「サンガレ」と呼ばれているのです。
これは知らないと少し分かりにくいですが、東スイスには「聖人」を意味する「サンクト」(Sankt)が地名に含まれている市町村が比較的多く点在し、その後に続く名前によっては「サンクト」を「サン」と略した方が言いやすくなるケースがあります。
例えば、過去に2度の冬季オリンピックが開催された「サンモリッツ」(Sankt Moritz)がその類で、「サンクト・ガレン」もまた早く言うと舌を噛みそうになるため、「サンガレ」としています。
地元住民によるとさらに「ガレ」の部分を詰まらせて「サンッガレ」と発音するのが正しいみたいですが、現地では「サンガレ」と「サンッガレ」のどちらのスペルも確認できますので、その点はさほど気にする必要はございません。
そして、サンクト・ガレンの方々はチューリッヒ人と違って心が広いこともあって、呼び方に関して注意を受ける心配をすることもないです。
語尾には基本的に注意すること!
スイスのメジャーな都市に関してかなり極端な例を2点ご紹介しましたが、大半の地名は表記と呼び方でそこまでの違いがないのが現状です。
ただし、語尾には基本的に注意しなくてはなりません。
例えば、スイスには南ドイツと同様にアレマン人に由来する「○○ingen」の地名が非常に多く点在し、ドイツではそれらを文字通り「○○インゲン」と発音するものの、スイスでは「○○イゲ」と呼んでいます。
具体的な例を挙げますと「Wettingen」という地名があり、ドイツ人なら迷わず「ヴェッティンゲン」と読みますが、スイス人はそれを「ヴェッティゲ」と言うのが普通です。
チューリッヒ近辺で頻繁に目にする「○○ikon」やスイス北西部に度々登場する「○○iken」の語尾が付いてる地名に関しても同様なパターンが見受けられます。
というのも、「Wetzikon」は標準ドイツ語で「ヴェッツィコーン」と呼ぶ一方、スイス人からすれば「ヴェッツィケ」が正しい発音なのです。
同じように、「Däniken」も標準ドイツ語の常識に従えば「デニケン」と呼びますが、スイス人は皆「デニケ」としか言いません。
したがって、地名の語尾に「エン」(-en)または「オン」(-on)がある場合はそれらをほぼ例外なく「エ」にするのが規則で、地名によってはそれ以外の文字を省略することが多い傾向があります。
あとは地名においても普段から従来のスイスドイツ語発音を意識することが重要です。
ドイツ語で家を指す「ハウス」(Haus)はスイスドイツ語で「フース」(Huus)なので、スイス最北端の町である「シャフハウゼン」(Schaffhausen)もスイスドイツ語では当然ながら「シャフフーゼ」(Schaffhuuse)と呼びます。
今回は、あまり気にしないけど言い間違えた時や、道を尋ねた際に相手に上手く伝わらないと恥ずかしい経験をしたり、困ったりする地名問題についての話題でした。
もちろん、全ての地名をリストアップした方が効率的に学べると思いますが、あまりの数の多さにここで採り上げるには少々無理があります。
そこで、本記事でメジャー例を数点ご紹介し、スイスで地名を正しく発音するアドバイスを残すことにしました。
現地を訪れることがそもそもない人からすれば、今回の内容はあまり参考にならないでしょうが、いつ何時それが役に立つか分かりませんので、知識としては記憶に残しておいていただきたいと存じます。
また、実際にスイスに行かれた際に「チューリッヒ」を「ツュリ」と言えるだけでも周りの反応ががらりと変わるだけでなく、訪日スイス人に遭遇した時のネタにもなることから、せめて「ツュリ」だけでも覚えてくれたら嬉しいです。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
呼び方 | Bezeichnung
(ベツァイヒヌング) |
Bezeichnig
(ベツァイフニク) |
読み方 | Lesung
(レースング) |
Läsig
(レスィク) |
関係性 | Beziehung
(ベツィーウング) |
Beziähig
(ベツィエイク) |
方角 | Richtung
(リヒトゥング) |
Richtig
(リフティク) |
真っ先に | zuallererst
(ツーアラーエアスト) |
als allererschts
(アルス・アレルエルシュツ) |
洗礼 | Taufe
(タウフェ) |
Taufi
(タウフィ) |
留学 | Auslandsstudium
(アウスランツシュトゥーディウム) |
Uslandsschtudium
(ウスランツシュトゥディウム) |
指摘する | hinweisen
(ヒンヴァイセン) |
hiiwiise
(ヒーヴィーセ) |
語尾 | Wortendung
(ヴォアトエンドゥング) |
Wortendig
(ヴォルトエンディク) |
普段から | gewöhnlich
(ゲヴェーンリヒ) |
gwöhnlich
(クヴェーンリフ) |
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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