ウィーン交通事情
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こんにちは、『オーストリア留学日記』を担当していますmona_tです。第2回の今回は、最新のデータと実際に利用していて感じる印象をもとにウィーンの交通事情についてお届けします。
ウィーンは街自体が非常にコンパクト。その大きさは約415km²で、日本の都市でいうと横浜市と同じくらいの大きさだそうです。
そんなウィーン市内の交通の主役は、やはり地下鉄(U-Bahn)とトラム(Straßenbahn)でしょう。
ウィーン市民の心強い味方!便利な地下鉄
ウィーンの地下鉄の魅力は、やはり接続がシンプルで運行もスムーズな点ではないでしょうか。
地下鉄は全部で5線。U1~U6まで番号が付いていますが、U5はまだ存在しません。
その理由は、地下鉄の建設が始まった当初からU5のために複数のルート構想があり、そのいずれもが(多くは経済的な理由によって)頓挫してきたという背景によるようです。
2014年にようやくKarlsplatz (1区) ― Elterleinplatz (17区)間にルートが決まり、現在は絶賛工事中です。
2026年からの運行を予定していますが、全ての駅を網羅した完全開通はさらに先になるようです。
ちなみにU5の駅のカラーは、市民アンケートで選ばれたtürkisen(トルコ石色)。
初の全自動車両とのことで、新しいU5を目にするのが今からとっても楽しみです。
ウィーンの地下鉄は本数も比較的多く、5分~10分間隔で運転しているのでストレスフリー。人身事故や車両点検のための遅延も非常に少ないのが個人的には意外に思った点です。
海外の地下鉄は、国や都市によっては治安の面で少し不安なイメージもありますが、ウィーンの地下鉄は夜間でも比較的安心して利用できます。
ちなみに料金についても少し触れておくと、ウィーンの公共交通機関は全体的に割安だと感じます。
特に学生は学期中ウィーン市内の交通機関すべてに使えるセメスターチケットが75ユーロ*で買え、通常の切符を購入する場合にも、あらゆる市内交通機関に使える1回乗車券が2.4ユーロと(1方向のみで80分有効、乗り換えは可能だが移動の中断は無効に)街中の移動には比較的安いのではと思います。
ただし注意が必要なのは、オーストリアもドイツと同じように信用乗車方式を採用しているため、基本的には改札がないこと。車内あるいは下車した駅のホームなどで行われる抜き打ちの乗車券検査で切符を買っていないことが判明したり、あるいは切符を買っていても乗車時に印字をしていなければ、なんと105~115ユーロもの罰金を取られます。
有効な切符を持っていれば何も恐れることはないはずなのですが、どうしてもこの抜き打ちチェックにドキドキしてしまう私としては、早く日本のようなICカードが普及することを願うばかり。
ちなみにICカードは普及していませんが、ウィーン交通のアプリはなかなかの優れもの。
すべてのチケットはアプリ上でも買うことができ、このアプリを使えば乗り換えルートの検索もできるので、ウィーンで街を探索される方は必携!です。
*切符などの値段は全て2023年4月現在
ちょっぴり注意が必要・・トラムを乗りこなす?
ウィーンの地下鉄が市民の足として心強い存在である一方、トラムには少し注意が必要かもしれません。
それは、トラムの線路が走る道路がイベントごとに頻繁に封鎖され、そうなると交通も大きく制限されるから。
特にウィーンの中心であるリング大通りは、イベントの際は必ずと言っていいほど交通規制がかかります。
イベントの種類は様々ですが、一番多いのはなんと言ってもデモでしょう。
2021年から22年にかけては政府のコロナ対策に対するデモがかなりの規模と頻度でありましたし、現在だと気候変動への対策や環境保護を求めるデモが頻繁に行われています。
ただこれはあくまで個人的な印象ですが、ウィーンのデモは他の都市に比べるとやや穏やかではないかと思います。
警察と参加者の衝突などはありますが、火をつけたり暴動に発展したりすることはあまりありません。
日本でデモと聞くと一部の人が参加する単発的なものというイメージがあるかもしれませんが、ヨーロッパの人びとにとってデモは自分たちの考えや要求を主張する正当な機会であり、それゆえ参加する人たちの年齢や立場も様々です。
実際に大学で参加を呼び掛けられる機会や大学の友人に今日はデモに行く、と言われることもあります。
交通事情から少し逸れましたが、とにかくこうしたイベントで道路が封鎖されると、トラムの利用には注意が必要ということです。
私自身、郊外からリング大通りまでトラムに乗り、『このトラムはデモのためここから引き返します』というアナウンスが入ったためにしぶしぶ降りて大学まで歩いたことがすでに複数回。
こういう時は乗客皆でゾロゾロ降りて別の交通手段を探すか、急ぎでなければ歩くという流れになります。
イベントがある日には最初からトラムを避けるのが一番ですが、日本ではデモで交通が乱れるということは滅多に経験しないので、デモを避けて交通手段を選ぶというのはそれだけでなかなか新鮮な日常です。
ちなみにデモだけでなく、年に一度国立オペラ座で催される舞踏会(Opernball)などの際にも注意が必要。電光掲示板に光る『舞踏会のため運休』の表示を見れば、あなたもきっとウィーンにいることを実感するでしょう。
歩行者フレンドリーな街へーこれからの都市交通
ウィーンはかねてより中心部の交通渋滞の解消に向けて様々な試行錯誤を行い、対策を講じてきました。
そうした努力もあってか、公共交通機関が利用者にとって便利に、かつ都市全体で見ても効率的に機能しているように感じます。
そんなウィーンの交通事情における最近の時流は、“自動車フレンドリー”な街から”歩行者フレンドリー”な街への移行です。
特にここ十数年、ウィーンの市政や都市交通の研究者たちは、公共交通機関の充実によってだけでなく、街中への自動車乗り入れ規制や駐車場の撤去なども通じて歩行者が生活しやすい街作りを目指しています。
例えば、2014年に市議会で採択されたウィーンスマートシティ枠組み戦略(Die Smart City Wien Rahmenstrategie)では、2025年までに自家用車の使用を20%減らすという目標が設定されました。
こうした動きは他のヨーロッパの都市でもみられ、デンマークのコペンハーゲンやオランダのアムステルダム、スロヴェニアのリュブリャナなど複数の都市がすでに旧市街への車の乗り入れを禁止しています。
ウィーンでもリング大通り内への自動車乗り入れ禁止の導入が議論されていますが、今のところまだ実現はしていません。
規制の方法が定まらないことに加え、自動車を愛する人ももちろんまだ沢山いるので、完全な乗り入れ禁止に対しては賛否両論あるようです。
しかし近年特に高まっている環境保全への関心からも、こうした流れは今後も加速していくのではないでしょうか。
また最近では街のあちこちでウィーンMobileと書かれた市営のレンタルサイクルを見かけるようになり、自転車道路の整備・拡張も進んでいます。
もちろん解決すべき課題はまだまだ残っていますが、コンパクトな街だからこそ、可能な限り車を使わず生活できるような取り組みが街づくりの観点からされているのはとても効率が良いなと思いますし、こうした取り組みを通じてウィーンは今後も都市としての魅力を増していくのではないでしょうか。
いかがでしたか?住むにしても観光をするにしても必ずと言っていいほどお世話になる公共交通機関や、どの都市にも存在する交通の問題とそれに対する市政の取り組み。
そんな交通のあれこれを、ヨーロッパの一都市としてのウィーンの交通事情を通じて考えてみるのも面白いですね。
参考ページ
・Fußgängerzonen – Wien Geschichte Wiki
(https://www.geschichtewiki.wien.gv.at/Fu%C3%9Fg%C3%A4ngerzonen)
・U Bahn Wien: U Bahn Plan für alle Linien (stadt-wien.at)
(https://www.stadt-wien.at/wien/oeffentl-verkehrsmittel/u-bahn-wien-u-bahn-plan-fuer-alle-linien.html)
・Smart City Rahmenstrategie – Die Fortschrittskoalition für Wien
(https://www.wien.gv.at/regierungsabkommen2020/smart-city-wien/smart-city-rahmenstrategie/)
「オーストリア留学日記 ウィーン」次回は6月に更新です。どうぞお楽しみに!
全4回にわたって「オーストリア留学日記 ウィーン」を担当させていただくmona_tです。生まれも育ちも加賀百万石の地、金沢。日本の大学でドイツ語を学び、政治学を専攻する大学院生です。ウィーンの街並みに魅せられ、現在ウィーン大学に二度目の留学中。
ウィーン訛りに悪戦苦闘するヴァイオリン弾き(?)として、学生ならではの視点でオーストリアの魅力をお届けできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
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