Billet, Formation, Dienstzug スイスドイツ語講座その10:鉄道に関する言葉
目次
スイスを訪れる際、皆様はスイス国内をどのような手段で移動していますか?
パックツアーであれば事前に手配されていて、ご自身で交通手段を考えることは基本的にありませんが、個人旅行に関してはレンタカーや電車が主な選択肢になると思います。
とはいえ、ユングフラウヨッホやツェルマットなどは自動車で行くことができませんので、何れにしても鉄道を利用することになるでしょう。
そういった理由から、スイスのほぼ全土に列車を走らせているスイス連邦鉄道ことSBB社は多言語で対応しており、利用客に可能な限りの快適性を提供することに努めていることから、大抵の観光客は不便なくスイスで列車の旅を楽しむことができます。
皆様の中で実際にスイスの列車に乗ったことがある方もそれを実感できたのではないでしょうか?
しかし、ドイツ語圏の利用客からはアナウンスの内容や列車の車掌の言葉が分からないこともあるとの意見も出ているようです。
ドイツ人であれば共通言語であるドイツ語で鉄道職員と困ることなくコミュニケーションを取れますが、アナウンス等では普段聞かない表現や用語が使用されるため、その内容が理解できないことも少なくありません。
つまり、鉄道に関してもスイスと他のドイツ語圏で言い方が異なり、同じドイツ語でも「こんなに違うの?」と、驚くほどです。
したがって、今回はそんなスイスの列車を利用する上で耳にする可能性が高い鉄道に関する言葉をご紹介いたします。
「乗車券」ではなく「切符」と言う位置づけ
まず、最初に覚えておきたい鉄道に関するスイスドイツ語は列車に乗る際に必ず購入するチケットです。
チケットは標準ドイツ語で「乗車券」を意味する「ファーカーテ」(Fahrkarte)と言いますが、スイスドイツ語ではフランス語由来で切符を指す「ビレート」(Billet)と呼んでいます。
日本では鉄道のチケットの呼び名として乗車券と切符のどちらも使うことができることから、同意語のように使用されている傾向があります。
しかし、正確に言いますと乗車券は乗物を利用する際に使うもので、切符は乗物には限定されていない利用券です。
したがって、標準ドイツ語の「ファーカーテ」は公共交通機関を利用する際に必要となるものと定義されていますが、切符に該当するスイスドイツ語の「ビレート」は乗物だけでなく、広義には入場券なども含むのが大きな違いです。
このように、ドイツ語とスイスドイツ語の差異は言葉の語源のみならず、定義そのものが異なる場合があります。
また、チケットの定義に既に差が存在するため、それに関係する様々な単語にも当然ながら違いが生じます。例えば、標準ドイツ語で乗車券が「ファーカーテ」ですので、往復乗車券は「リュックファーカーテ」(Rückfahrkarte)となるのです。
それに対して切符を表す「ビレート」を使っているスイスドイツ語では往復切符は「レトゥールビレート」(Retourbillet)という単語で表します。
それと同様に車内で乗車券を拝見する係員をドイツで「乗車券確認者」を指す「ファーカーテンコントロレール」(Fahrkartenkontrolleur)と言い、スイスでは同職員を「もぎり」に相当する「ビレテール」(Billeteur)と称しています。
因みに、この「ビレテール」に関してはスイスだけでなく、オーストリアでも使われていますが、そこでは劇場や映画館での客席案内人に限定されていて、鉄道職員に対しては用いられませんので混同しないよう注意する必要があります。
列車の案内での注意点
ドイツ語圏におけるチケットの概要が分かったところで列車についても詳しく見ていきましょう。
基本的に列車はドイツ語圏全域で「ツーク」(Zug)と言い、表現が統一されていますが、一部の列車に関しては国によって呼び方が異なります。
例えば、急なトラブルなどで増発する臨時列車をドイツでは「ソンダーツーク」(Sonderzug)の名前が使われ、スイスではそれを「エクストラツーク」(Extrazug)と呼んでいるのです。
これはどちらも「特別列車」の意味を持っていますので、その言葉を初めて聞く人でも理解できます。
しかし、旅の途中に列車が運休となり、臨時列車のアナウンスで本来聞き慣れている単語と別の言い方が登場すると不安になることも少なくありませんので、こういった違いを事前に知っておくと安心です。
これはホームや車内アナウンスで頻繁に耳にする「車両編成」についても同じで、ドイツやオーストリアでは車両編成を一般的に「列車の複合体」を意味する「ツークフェアバント」(Zugverband)と称していますが、スイス連邦鉄道はこの場合に「列車構成」を表す「ツークコンポスィツィオーン」(Zugkomposition)という用語を当てています。
ただし、鉄道職員によっては車両編成を「フォルマツィオーン」(Formation)、即ちフォーメーションなどと表現する人もいるため、スイスの列車を利用する際は、列車の案内等が常に同じ言い回しになっているとは限らないことに気を付けなくてはなりません。
ドイツの「事業用設備」VSスイスの「業務用設備」
鉄道関連でさらに忘れてはいけないのが、見た目は普通の客車と一緒でありながらも、乗ってしまうと大変な目に合う「回送列車」です。回送列車は標準ドイツ語で「レーアツーク」(Leerzug)、つまり「空車」と呼ばれていて初耳の人でも乗車すべきでないことが伝わりますが、スイスでは「ディーンストツーク」(Dienstzug)という呼び名が用いられています。
この「ディーンストツーク」という表現は直訳すると「業務用列車」に当たり、通常の列車ではないことを推測させるものの、その言葉を「サービス列車」と解釈することも可能なため、少々紛らわしい言い方です。
しかし、スイス連邦鉄道においては乗客を輸送する目的以外で使用される設備や列車は全て「業務用○○」のネーミングが付いていることを念頭に置いておく必要があります。というのも、時間調整のために列車の待機のみを目的とする旅客が乗降できない駅を「ディーンストバーンホフ」(Dienstbahnhof)と言い、乗客を乗せた列車が普段利用しない整備工場などに通じる路線を「ディーンストシュトレッケ」(Dienststrecke)と呼んでいます。
他のドイツ語圏ではこれらの設備を「ベトリープスバーンホフ」(Betriebsbahnhof)ならびに「ベトリープスシュトレッケ」(Betriebsstrecke)としており、スイスのように「業務用○○」ではなく、「事業用○○」で表現を統一している点が大きく異なります。
ただし、中にはこのルールが当てはまらない例外も存在します。
例えば、「車両基地」は標準ドイツ語で「事業用工場」、即ち「ベトリープスヴェアク」(Betriebswerk)で、上記パターンが一貫していますが、スイスドイツ語においては車両基地をなんと単純に「デポ」(Depot)と言うのです。
このように、同じドイツ語圏で列車に乗るだけとはいえ、使用される用語にかなりの差がありますので、常に表示内容を確認した上で乗車するよう心掛けるようにしましょう。
今回の鉄道に関する言葉は参考になったでしょうか?
中にはあまり見かけることがない内容も含まれていましたが、なるべく皆様がスイスで鉄道を利用する際に遭遇する可能性のあるものを選択させていただきました。
また、チケットとの関連で申し上げたように、今回登場した単語は決して鉄道分野に限定されているものとは限らず、「ビレート」や「デポ」などの用語はバスやトラムでも用いられています。
そのため、こういった言葉は自身が直接関わることがなくても、スイスを訪れる際は車両表示や利用方法を記載した書面等で目撃する日常的なスイスドイツ語です。
実際にこのような表現を現地でどれほど使うかは、スイスに滞在する目的や滞在中の行動によって変わりますが、これからも可能な限り日常的なシチュエーションを前提としたスイスドイツ語をご紹介できればと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
アナウンス | Durchsage
(ドゥルヒサーゲ) |
Durchsaag
(ドゥルフサーク) |
入場券 | Eintrittskarte
(アイントリッツカーテ) |
Iitrittscharte
(イートリッツハルテ) |
臨時列車 | Sonderzug
(ソンダーツーク) |
Extrazug
(エクストラツーク) |
車両編成 | Zugverband
(ツークフェアバント) |
Zugkomposition
(ツークコンポスィツィオーン) |
案内 | Auskunft
(アウスクンフト) |
Uuskunft
(ウースクンフト) |
回送列車 | Leerzug
(レーアツーク) |
Diänschtzug
(ディエンシュトツーク) |
設備 | Anlage
(アンラーゲ) |
Aalag
(アーラーク) |
業務専用駅 | Betriebsbahnhof
(ベトリープスバーンホフ) |
Diänschtbahnhof
(ディエンシュトバーンホフ) |
業務専用路線 | Betriebsstrecke
(ベトリープスシュトレッケ) |
Diänschtschtrecki
(ディエンシュトシュトレッキ) |
車両基地 | Betriebswerk
(ベトリープスヴェアク) |
Depot
(デポ) |
参考ホームページ
スイス連邦鉄道オフィシャルサイト
https://www.sbb.ch/de/home.html
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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