中央スイスの古都ルツェルン

今回はルツェルン州(Kanton Luzern)の州都で同名の都市であるルツェルンをご紹介いたします。

スイスの観光ガイドに必ず掲載されることから既にご存知の方や実際にご訪問された人も多いと思います。しかし、小さな町であるとの理由から日帰り旅行の対象にされがちで、実際にルツェルンを訪れたことのある読者様も長居はしなかったのではないでしょうか?

確かに、ルツェルンの中心部は非常にコンパクトで、短時間で効率よく回れるのですが、その郊外や周辺地域を含めば数えきれないほどの見どころに溢れています。

したがって、今回は「ルツェルンを再度訪れたい」や「一度だけルツェルンに行けるなら時間を掛けて見たい」と思えるような魅力の数々についてのお話をさせていただきます。

 

市場から発展した都市国家

 

ルツェルンの起源については記録が全く現存しないことから詳細は不明ですが、様々な調査や出土品から紀元前にケルト民族が既に居住地として利用しており、ローマ時代には集落が築かれていたことが分かっています。

そして、6世紀以降はアレマン人が定住し、8世紀にサンクト・レオデガー・イム・ホーフ修道院(Kloster St. Leodegar im Hof)が創建されます。

この修道院は840年にアルザス地方(Alsace)のムルバッハ修道院(Kloster Murbach)の管理下に置かれ、この出来事を記載した文章がルツェルンの地名に言及する最古の記録です。

その後、川岸周辺に市場が建ち、それを囲むように住宅地が広がっていきます。土地の所有権は引き続き修道院にあったものの、1178年に住民が自ら行政権を行使する権限が与えられたことから、歴史学者の間ではこの瞬間がルツェルンの誕生とされています。

しかし、隣接する地域の代官であったハプスブルク家が1291年にムルバッハ修道院の所有権を取得することでルツェルンも手中に収めます。

そのため、ハプスブルク家からの独立を試みたアイトゲノッセンシャフトの原三州とルツェルンの関係が悪化しますが、争いを避けたかったルツェルンはハプスブルク家に忠誠を誓いながらも1332年にアイトゲノッセンシャフトと同盟を結ぶことになります。

それでも、ハプスブルク家が自治権に規制をかけたため、最終的に原三州と共に独立運動への参加を決意します。アイトゲノッセンシャフトの勝利に大きく貢献したルツェルンはその後4番目の州として認められ、都市国家を確立して周辺地域の併合による支配領域の拡張を図りました。

また、主に農村から構成されていた他の州と違って都市国家だったことと、地理的にもアイトゲノッセンシャフトの中心だったルツェルンはそれ以降スイスの政治や経済において常に重要な役割を担う中枢メンバーでした。

 

 

中世の面影が残る古都

 

フィアヴァルトシュテッター湖(Vierwaldstättersee)北西部の湖畔に建てられたルツェルンは、湖がロイス川(Reuss)に移行する位置でもあるため、川の両岸に町が広がります。

元々はロイス川とその北にある丘を自然の要塞にして町が建設されたので、川の右岸を旧市街(Altstadt)、そしてその後徐々に開拓された川の左岸を新市街(Neustadt)と呼んでいます。したがって、川の両岸はそれぞれが創建された時代を反映するかのように、外観や雰囲気が異なります。

特に、旧市街には中世に誕生した建造物が多く残っており、現在も当時の雰囲気を感じさせます。その代表例とも言えるのが旧市街と新市街を繋ぐカペル橋(Kapellbrücke)とシュプロイアー橋(Spreuerbrücke)です。

1360年に完成したカペル橋はヨーロッパ最古、そして2番目に長い屋根付き木造橋としてルツェルンのシンボルのひとつでもあるのです。

また、その中間にある八角形のヴァッサー塔(Wasserturm)はカペル橋よりも古いと言われており、元々は監視塔でしたが、宝物庫や牢獄の他、拷問室としても使用されたことから、町の重要な歴史遺産でもあります。

1408年に建てられたシュプロイアー橋については歴史も規模もカペル橋に劣りますが、町の粉挽き職人が小麦粉を製造する際に出る殻をロイス川に捨てたことがその名前の由来になっているだけあって、当時の町民の生活を物語る貴重な文化財なのです。

しかし、忘れてはいけないのが、旧市街の北部に聳えるムセック壁(Museggmauer)です。この壁は上記2つの橋と同様に、旧市街を囲んでいた城郭の一部で、13世紀から15世紀に掛けて建設されました。

都市国家であったルツェルンに防衛目的で城郭があったことは決して不思議ではありませんが、現在も9つの監視塔と800メートル以上にわたる壁が当時の姿で現存しているのは極めて珍しく、スイス国内ではルツェルンだけです。

 

ムセック壁

 

四通八達の地

 

そんな風情漂うルツェルンですが、実は交通結節点としても有名なのです。

スイスのほぼ中央に位置する地理的条件によってルツェルンには古くから各方面に通じる道路が整備され、アクセス性に優れていました。

そのため、ルツェルンはアイトゲノッセンシャフトに加盟している州の代表者が集まる会議の開催地として選ばれることが多かっただけでなく、1848年にスイス連邦の首都を決定する際にも有力候補として挙げられたほどです。

その後の近代化における鉄道整備でもルツェルンの立地条件が重要視され、東西南北へそれぞれ複数の鉄道路線が確立し、度重なる拡張を経て現在はスイスのほとんどの主要都市に短時間、かつ乗り換えなしで行ける鉄道網にまで発展しました。

しかし、ルツェルンの結節点としての利便性は陸路のみならず、水路にも及んでいます。

というのも、ルツェルンは定期船や遊覧船を含め、計20隻でスイス最大の隻数を保有するフィアヴァルトシュテッター湖船舶会社(Schifffahrtsgesellschaft des Vierwaldstättersees)の本拠地でもあるのです。しかも、同社はカタマランや外観がヨット風発動機船以外に船側外車汽船も5隻運行しているため、バラエティー溢れる船が揃っていると同時に陸水では世界最大の外車汽船隻数を誇ります。

そして、四通八達の地であることを象徴するかのように、スイス国内で陸海空問わず全ての交通手段を取り扱う唯一の施設「スイス交通博物館」(Verkehrshaus der Schweiz)もまたルツェルンにあります。

当該博物館は、全国で最大のプラネタリウムやアイマックスシネマを併設しており、規模においてだけでなく、年間来館者数に関しても全国一位のレジャー施設なのです。したがって、鉄オタを始め、乗り物好きな人にとっては必見ですが、体験型アトラクションも多数ありますので、子供から大人まで丸一日楽しめるスイスの人気スポットとなっています。

 

フィアヴァルトシュテッター湖を運行する船側外車汽船「シラー号」(Schiller)

 

アルプスへの玄関口

 

ルツェルンを語る上で更に挙げておかなければならないのは何と言ってもその周辺に広がるアルプスの絶景です。

比較的平坦な地に建っているルツェルンはアルプスの麓でもあり、その南部にはスイスとイタリアを結ぶ山々が連なります。そのため、ルツェルンはアルプスの北の玄関口とも称され、長きにわたって宿場町としての役割も果たしてきました。

特に、1220年にゴットハルト峠(Gotthardpass)への道が開通してからはアルプスを南北に横断する商人が必ず立ち寄る場所となり、それらの宿泊と関税は重要な収入源でもありました。

近代以降はゴットハルトトンネル(Gotthardtunnel)の完成に伴い、その傾向が徐々に減少したものの、アルプスを観光資源として全面的にアピールしたことでルツェルンは現在もアルプスへ向かう人々の起点になっているのです。

したがって、ハイキングはもちろんのこと、クライミングやパラグライダー、そして冬にはスキーなどのウィンタースポーツを楽しむ人々で賑わいます。

中でも人気が高いのは「山の女王」の異名を持つリギ山(Rigi)とルツェルンのランドマークでもあるピラトゥス山(Pilatus)と言えます。

しかし、ルツェルンの対岸の約8キロ離れている場所に立っているビュルゲンシュトック山(Bürgenstock)も挙げておきたい名山のひとつです。

ビュルゲンシュトック山は飛び地でありながらもルツェルン市の管理区域となっているだけでも珍しいのですが、実はあの名女優オードリー・ヘップバーン(Audrey Hebpurn)が結婚式をあげ、居住地にしてこよなく愛した場所としても有名なのです。

 

リギ山(前方)から見たフィアヴァルトシュテッター湖とアルプスの山々:

ビュルゲンシュトック山(左)、ピラトゥス山(中央後方)、ルツェルン市(右の湖畔)

 

ルツェルンに関する記事は如何でしたか?

まだ行かれたことのない方はご興味を持っていただけたと思いますが、既に訪れたことのある人も再度行きたい気持ちになれましたでしょうか?

ご説明したように、様々な魅力を持っているルツェルンとはいえ、日帰り旅行の対象にされる傾向が強く、宿泊する観光客はさほどいないのが現状です。

それ故、ルツェルンは日本の奈良市と同様に「泊まっていかない観光地」とも呼ばれています。

そこで、この記事を読んで1日以上は滞在して色々見て回りたいと感じていただけたのならこれ以上嬉しいことはありません。

旅行のスケジュールの関係で長居が難しいこともあると存じますが、ルツェルンはナイトクルーズやカペル橋のライトアップなどを始め、夜の楽しみ方も充実していますので、皆様も泊まっていかない観光地に是非一度泊まっていきませんか?

では

Bis zum nöchschte mal!

Birewegge

 


今回の対訳用語集

日本語 標準ドイツ語 スイスドイツ語
住宅地 Wohngebiet

(ヴォーンゲビート)

Wohngebiät

(ヴォーンゲビエト)

所有権 Eigentumsrecht

(アイゲントゥームスレヒト)

Eigetumsrächt

(アイゲトゥームスレフト)

忠誠 Treue

(トロイエ)

Treui

(トロイイ)

牢獄 Gefängnis

(ゲフェングニス)

Gfängnis

(クフェングニス)

鉄道路線 Eisenbahnstrecke

(アイセンバーンシュトレッケ)

Isebahnschtrecki

(イセバーンシュトレッキ)

乗り換え Umsteigen

(ウムシュタイゲン)

Umschtiige

(ウムシュティーゲ)

交通手段 Verkehrsmittel

(フェアケーアズミッテル)

Verchersmittel

(フェルヘールスミッテル)

結節点 Knotenpunkt

(クノーテンプンクト)

Chnotepunkt

(フノーテプンクト)

Bergfuß

(ベルクフース)

Bergfuess

(ベルクフエス)

ハイキング Wandern

(ヴァンダーン)

Wandere

(ヴァンデレ)

 

参考ホームページ

ルツェルン市オフィシャルサイト

https://www.stadtluzern.ch

ルツェルン州オフィシャルサイト

https://www.lu.ch

ルツェルン観光オフィシャルサイト

https://www.luzern.com

スイス歴史辞典:ルツェルン(州)

https://hls-dhs-dss.ch/de/articles/007382/2018-02-07l/

フィアヴァルトシュテッター湖船舶会社オフィシャルサイト

https://www.lakelucerne.ch/de/

スイス交通博物館オフィシャルサイト

https://www.verkehrshaus.ch/startseite.html

 

Comments

(0 Comments)

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA