UNESCO無形文化遺産 ウィーンのカフェ

ウィーンのカフェ文化は日本の茶道と共通点が多いと思います。茶道は、ただお茶を飲む事だけではなく部屋の雰囲気から茶碗などの茶道具の形まで全てが茶道の要素ですね。茶道のほうが間違いなく淑やかですが、ウィーンの「カフェーハウス」(Kaffeehaus)も、飲食はただ一つの要素に過ぎず、カフェの雰囲気、家具、ウエイターなどもカフェーハウスを構成する重要な要素です。ウィーンのカフェ文化は、2011年にUNESCO無形文化遺産に登録されました。保護されているのはコーヒーの作り方や建物などではなくて、「カフェーハウスクルトゥーァ」(Kaffeehauskultur)つまりウィーンのカフェの文化です。

ウィーンへのコーヒー伝来

 

まず、コーヒー文化がウィーンに伝わった時期ですが、コーヒー豆がいつ最初にウィーンにもたらされたのかは明らかではありません。ある言い伝えによると、1683年にオスマン帝国の陸軍が何ヶ月かウィーンを包囲したものの陥落させることができず撤退したのですが、その際に大量のコーヒー豆を残していったそうです。コーヒー豆を見たことのないウィーンの人々にとっては敵が残した怪しい豆なので燃やしてしまえと云って火を付けたところ、火に焼けた豆からは何とも不思議な美味しい香りが漂ってきたので、ウィーンの勝利に貢献したゲオルク・フランツ・コルシツキーという人物に褒美として贈呈したそうです。そして、コルシツキーが、この豆を使ってウィーンに第1号のカフェを開業したのが最初と云われています。しかし現在では、ヨハネス・テオダトというアルメニア人のスパイが最初のカフェを開店したという説が有力とされています。どっちの言い伝えが正しいかは別として、ウィーンのコーヒーはウィーン包囲と関係していると言えます。

コーヒーがウィーンに伝わった当時、ヴェネチアやイギリスにはすでにコーヒーを販売するカフェがありました。ウィーンは、出だしは後れを取ったものの、カフェ人気は瞬く間に上昇し、1900年にはウィーン市内に600軒ものカフェがあったそうです。なぜウィーンのコーヒーがいち早く人気を博したのか、その最大の理由は、店で焙煎した豆から作った新鮮なコーヒーに砂糖とミルクを混ぜたことにあるようです。ところで、当時のコーヒーのメニューには「カプチーノ」などの固有名称がなかったので、コーヒーを注文する時はウエイターが茶色のカラースケールを持ってきて、スケールからどのくらいミルクを入れて欲しいかをお客さんが決めていました。真っ黒い強烈なブラックコーヒーからミルク色の薄いコーヒーまでの様々なグラデーションの中から好きなものを選ぶことができました。そのため、当時は、現在よりもコーヒーの種類が多かったようです。

ウィーンのカフェの最盛期

 

当初、カフェは男性のためだけの社交場でした。ウィーンの女性はカフェでコーヒーを飲めるようになるまで1856年までに待たないといけませんでした。そして19世紀後半からウィーンのカフェは最盛期を迎えました。ウィーンの芸能人や哲学者たちは、こぞって長い時間をカフェで過ごしました。彼らにとってカフェは暖かく、食べ物や飲み物があり、知り合いに会え、電話ができ(当時はまだほとんどの家に電話がなかった)、無料で新聞を読める、とても居心地の良い場所でした。ペーター・アルテンベルクという作家は、手紙とクリーニングに出した洋服をCafé Centralまで送ってもらいました。狭くてごみごみしたアパートに住んでいたウィーン人にとって、カフェは第二のリビングとなり、また、多くの作家たちの仕事場にもなりました。カフェで生まれた文学はカフェ文学、ドイツ語で「カフェーハウスリテラツル」(Kaffehausliteratur)と呼ばれています。カフェの常連客だった有名人としては、アルトゥル・シュニッツラー、シュテファン・ツヴァイク、グスタフ・クリムト、エゴン・シーレなどが知られていますが、オーストリアのほとんどの有名人がカフェを愛していました。かのモーツァルトでさえカフェに通っていたと云われています。

カフェの衰退と復活

 

しかし芸術家たちが集まる賑やかで派手なカフェ文化は、ナチスの台頭により徐々に衰退していきました。第二次世界大戦が勃発すると、ウィーンのカフェは存亡の危機にさらされました。そして戦争が終わった後もカフェ文化の再興はなかなか進みませんでした。昔ながらのカフェは、1900年時代の残りの産物のように扱われ、近代的なライフタイルに合わなかったのです。ウィーンが昔のカフェ文化を取り戻したのは80年代に入ってからでした。それ以降、ウィーンのカフェは少しずつ人気を取り戻していきました。現在は、新たに登場したスターバックスなどの大手チェーン店と競争しています。と言っても、ウィーンのカフェはウィーンの街に深く根付いていて、ウィーンの文化の過去と現在をうまく調和させているので、流行りのチェーン店が無くなっても、ウィーンのカフェーハウスはこの先もずっとウィーンの街に残ると信じています。なぜならウィーンのカフェはただコーヒーを飲む場所であるだけでなく、人々が優雅にゆったりと時間を過ごせるウィーン市民にとってかけがえのない憩いの場だからです。コーヒーやお菓子も素敵ですが、私はカフェーハウスの雰囲気がとても好きです。今でもHawelka やSperl やPrückl やCentralといった伝統的なカフェーハウスに行けば、この雰囲気を十分に味わえます。

 

ウィンナー・コーヒー

 

まず日本で云う「ウィンナーコーヒー」という種類のコーヒーはウィーンにはありません。云うならば、ウィーンで飲むコーヒーはすべて「ウィンナーコーヒー」(ウィーンのコーヒー)で、ホイップクリームがのったコーヒーを「ウィンナーコーヒー」と呼ぶのは日本だけです。

また、ウィーンのカフェではカフェラテやカプチーノを出す店はあまりありません。本場ウィーンのカフェでこういうメニューはありません。ウィーンのコーヒーのベースは「モッカ」(Mokka)と呼ばれるコーヒーです。トルコのモッカとは異なり、エスプレッソのようなコーヒーです。一般にモッカには、「クライン」(klein)=「小」と「グロース」(groß)=「大」の2つのサイズがあります。クリームを入れたモッカは「ブラウナー」(Brauner)と呼ばれます。ブラウナーにも「クライナーブラウナー」(Kleiner Brauner)と「グロサーブラウナー」(Großer Brauner)の2サイズがあります。でも、一番人気のコーヒーは何と言ってもミルクを加えた「メランジェ」(Melange)です。カプチーノと似ていますが、メランジェに使われている豆はカプチーノよりも少しマイルドだそうです。さらに「アインシュペナー」(Einspänner)という、モッカに泡立てた生クリームを載せたコーヒーも人気です。「アインシュペナー」(Einspänner)という名前の由来は、「一頭立ての馬車」から来ています。御者が客待ち中に片手で持って飲んだコーヒーと言われており、取っ手付きのグラスで飲みます。アインシュペナーは日本で云う「ウィンナーコーヒー」に一番近いかもしれません。もちろん他にも色々な種類のコーヒーがありますが、今回は最も一般的なものをご紹介しました。

色々調べていたら、普段あまりコーヒーを飲まない私でもカフェーハウスでコーヒーを飲みたくなりました。その時はアプフェルシュトゥルーデルも食べようかな〜

Bis bald,

Schmankerl


参考ホームページ

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