スムージーボウルの元祖「ビルヒャーミュエスリ」
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近年、アサイーボウルを初め、スムージーボウルなど様々なボウルフードが話題になっていますよね?
数年前に北米を中心に流行りだしたことからアメリカ生まれの新しい健康食品と思われがちですが、実は前から同様な発想の料理がスイスに存在していたことをご存知でしたか?
シリアルに牛乳またはヨーグルトを混ぜ、トッピングとしてフルーツを加えるボウルに入った料理はスイスで「ビルヒャーミュエスリ」(Birchermüesli)と呼ばれ、100年以上も前から食べられている家庭料理です。
という訳で、今回は元祖スムージーボウルとも言えるスイスを代表する料理をご紹介いたします。
スイスの医師が開発した究極のダイエット食
ビルヒャーミュエスリはそれを考案したマクシミリアン・ビルヒャー=ベンナー博士(Dr. Maximilian Bircher-Benner)の苗字およびスイスドイツ語でムースを意味するムエス(Mues)に指小辞「リ」を付けたことに由来します。
1900年ごろにチューリッヒで医師として小規模な診療所に勤務していたビルヒャー博士は、療養の一環として独自に生のフルーツや野菜を取り入れたダイエット食品を開発していました。
最終的に完成したのが押しオーツ麦を柔らくなるまで水に浸した後、レモン汁と砂糖で甘くしたコンデンスミルクを加え、それを混ぜてから丸ごとすりおろしたリンゴ、および粉末にしたヘーゼルナッツとアーモンドをふりかけた、生の食材を未調理で使用する料理でした。
ビルヒャー博士はこれをリンゴダイエット食(Apfeldiätspeise)と呼び、1903年に自身の療養施設を開設してそれをダイエット効果が見込まれる栄養価の高い食事として提供し始めます。
しかも、シリアル食品は現在朝食として食べられることが多いのですが、消化の良いことからビルヒャー博士はそれをあえて夕食として配布しました。
また、博士が最も重視していた材料はリンゴで、必ず皮と芯も一緒にすりおろすだけでなく、おろしたリンゴが茶色くならないように少量ずつおろしてすぐにミュエスリに混ぜたと言います。
スイスを代表する家庭料理から世界中で愛される朝食へ
療養の一環としてミュエスリを開発したビルヒャー博士ですが、それが全ての人間の健康を促進すると確信していたことから、特許の取得も商品化もせず、数々の公演で自身のリンゴダイエット食を紹介しました。
同時に、レシピ本も出版したこともあり、ミュエスリは瞬く間に一般家庭、レストラン、養護施設、修道院、そして軍隊でも夕食として出されるようになりました。
人気と共に、様々な工夫を加えたバージョンが登場しただけでなく、事前に味付けされたシリアルフレークにヨーグルトや生クリームを混ぜて新鮮なフルーツを足すだけのインスタント食品まで発売されるようになります。
その後は60年代のエコブームに後押しされ、スイスの国境を越えて世界中で知られるようになり、入手可能なフルーツの種類も徐々に増え、それぞれの家庭で材料も味も異なる料理へと発展しました。
そのため、現在のビルヒャーミュエスリの内容は当初ビルヒャー博士が考案したものとは違いますが、シリアルを牛乳またはヨーグルトなどの乳製品でふかしてから新鮮なフルーツを加える点では原形を留めていると言えます。
また、現在ではホテルの朝食でもそれぞれの材料が揃っており、自分好みのミュエスリを作れるところも増えています。
そのため、本来の胃に優しい軽い夕食から栄養バランスの良い朝食へと変化した傾向が見られますが、スイスの多くの家庭では引き続き夕食として食べられています。
ミュエスリとスムージーボウルの共通点
ご説明したように、ビルヒャーミュエスリは材料も調理法も異なることからスムージーボウルと一緒にするには少々無理がありますが、完成品は非常に似ていると言えます。
ヨーグルトをベースに作ったスムージーにグラノーラなどのシリアルやフルーツをトッピングして混ぜてしまえば、結果的に現在多くの家庭で食べられているミュエスリとさほど違いはございません。
さらに、アサイーボウルではココナッツパウダーを掛けることも少なくないので、ナッツの粉末や新鮮なフルーツをトッピングする要素も共通しています。
しかも、そのアイデアは元々スイスの国民的料理から得たのではないかとの疑問もあります。
というのも、1980年代半ばにアメリカに本社を置くシリアル食品の大手企業が「ミュエスリ」の商標登録を試みましたが、既にドイツで他の会社による同様の申請が受理されていたため登録には至りませんでした。
しかし、この出来事はミュエスリが以前から注目されており、健康食品としての価値が評価されていたことを物語っていますので、スムージーボウルを初め、昨今ブームになっているボウルフードもそこからヒントを得た可能性は否定できません。
これはあくまで推測に過ぎませんが、ミュエスリもスムージーボウルも身体への負担や消化の良さを考慮した健康的な料理であるのは間違いありません。しかも、食事だけでなく、デザートにもなる点まで共通しています。
逆に異なるのは、ミュエスリが家庭のみならず、移動中や仕事の合間でも食べられている点です。そのため、現在では移動先でも簡単に作れる様々なレシピまで存在し、人それぞれの好みによって見た目だけでなく、内容まで違う実にバラエティーに富んだヘルシーフードとなっています。
スイスの国民的料理「ビルヒャーミュエスリ」に関するご紹介は如何でしたか?
日本でも「ミューズリー」などを始め、ビルヒャーミュエスリに因んだ複数の商品が販売されていますが、それが具体的にどのようなものか知らなかったので今までスルーしてきた人も多いと思います。
今回の記事をお読みになってご興味を持っていただけたのならこれ以上嬉しいことはありませんが、ご説明したように、作り方がとても簡単ですので是非一度作ってみてはどうですか?
さらに、混ぜるフルーツの種類や量で味も食感も大きく変わりますので、独自のミュエスリの開発にも挑戦してみませんか?
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
苗字 | Zuname
(ツーナーメ) |
Nachname
(ナーフナメ) |
野菜 | Gemüse
(ゲミューセ) |
Gmües
(クミュエス) |
押しオーツ麦 | Haferflocken
(ハーファーフロッケン) |
Haferflocke
(ハフェルフロッケ) |
アーモンド | Mandeln
(マンデルン) |
Mandle
(マンドレ) |
レシピ本 | Kochbuch
(コッホブーフ) |
Chochbuech
(ホッホブエフ) |
胃 | Magen
(マーゲン) |
Mage
(マゲ) |
家庭 | Haushalt
(ハウスハルト) |
Huushalt
(フースハルト) |
材料 | Zutaten
(ツーターテン) |
Zuetate
(ツエターテ) |
商標登録 | Markeneintragung
(マーケンアイントラーグング) |
Markeiitragig
(マルケイートラギク) |
消化 | Verdauung
(フェアダウウング) |
Verdauig
(フェルダウイク) |
参考ホームページ
- スイス外務省、ハウス・オブ・スイツァランド:「ビルヒャーミュエスリ」
- ベティ・ボッシ・デジタルマガジン:「世界中で知られているスイスの名物ビルヒャーミュエスリ」
- マクシミリアン・ビルヒャー財団オフィシャルサイト
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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