標準ドイツ語と南のドイツ語の微妙な違い
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こんにちは。
第二回目となる今回は「標準ドイツ語と南のドイツ語の違い」というタイトルでお送りしますが、特に私たちが日本の大学や語学学校で学ぶいわゆる標準ドイツ語と少し異なる南ドイツの表現をテーマにお届けしたいと思います。
なぜこれをテーマにしようと思ったかというと、私が南ドイツへ引っ越してきて初めて見かける単語はもちろん面白いのですが、「あれ?私が今まで習って使ってきた標準ドイツ語と微妙に違うかもしれない…」「もしかして私が間違えて学んでいたのかな?」と感じ、調べてみるとそれは南の方で使われる地域のバリエーションだったということが分かることがたびたびあるからです。
そしてこのような経験から、自分の持っている知識をさらに深めることができる喜びに触れ、言語を学ぶことの奥深さを実感できます。
今回は、標準ドイツ語とは微妙に違う南ドイツのドイツ語について具体的に例を挙げ、標準ドイツ語以外のドイツ語に触れることの楽しみを共有することができればと思います。
der Kinderwagenの複数形は…
ドイツ語の名詞の複数形の作り方には様々なパターンがあり、語幹がウムラウトになったり、語尾に-e, -(e)n, -erがつき単数形とは異なる形になるものもあれば、単数形とは形の上では変化のない複数形もあります。
実は名詞の複数形の作り方にも地域によって違いがあるものもいくつかあります。
その中で私が実際に見かけたものが、サムネイルの画像にもあるder Kinderwagen(ベビーカー)の複数形としてdie Kinderwägenが使われているという例です。
これは、実は知識としては知っていたのですが、実際に見かけたことや聞いたことはなかったものでした。
ベビーカーの意味のこの単語はKinder- とWagenという二つの語からできている名詞ですが、複合名詞の場合、複数形を作るときは最後の単語の複数形に影響されるのでWagenの複数形がWägenになっていることがわかります。
私たちが学ぶいわゆる標準ドイツ語では、der Wagen – die Wagenというように、形の上での特徴から単複同形であると言える名詞になります。
ですが、南ドイツ、またDWDS(https://www.dwds.de/wb/Wagen)によればオーストリアでもWagenの複数形としてWägenが使われているそうです。
確かにこの南ドイツの複数形の作り方は、標準ドイツ語にもよく見られる複数形の作り方です。
例えば「店」という意味のder Ladenは複数形ではdie Lädenとなりますし、「鳥」という意味のder Vogelも複数形ではdie Vögelというようにウムラウトになるので、南ドイツでのder Wagen – die Wägenも最初に見かけると違和感は感じたのですが、よく考えてみると確かに理にかなっているように思えました。
die Butter vs. der Butter
次の例はこちらへ来て初めて知ったもので、Wagenの例に比べると驚きが大きかった例です。
名詞の性というのは、おそらく皆さんがドイツ語を学ぶ上で厄介だなあと感じやすい文法事項だと思います。
いくつかの名詞は語尾から性を判断できますが、そうでないものも多く、学生時代に単語テストを前に一生懸命暗記したこともありました。
冠詞と一緒に言いながら覚えたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ドイツ語を学び始めると、比較的早い段階でドイツ語圏の国の食卓によく並び、スーパーなどで見かける食材の名前を学ぶことが多いと思いますが、中でも乳製品はたくさんあるので、私自身は名詞性と共に、とりわけ疑問を持つことなくdie Milch(牛乳), die Butter(バター), der Käse(チーズ), der Joghurt(ヨーグルト)…という具合に覚え、実際にドイツへ来てからもそのまま使っていました。
しかし、南ドイツへ引っ越してきて驚いたことに、周りの人々がdie Butterではなくder Butterと言っていることに気づいたのです。
しかも一人の方が言っていたわけではなく、その日のうちに何度も別の人々がButterを男性名詞として使っていたのでした。
ドイツ語に触れる生活をして15年、ドイツで生活をし始めて7年になりますが、バターは女性名詞だとずっと記憶しており何の疑問も持たずにdie Butterと言い続けていた私は、「もしかして私、ずっと名詞の性を間違って言っていたの!?誰にも直されたことないのに!?」と顔から火が出る思いでした。
しかし「いや、でもやっぱりdie Butterでは?名詞性の間違いはよく直してくれていた夫にも直されたことないし…。」と思い、もう一度調べてみると、なんと「南ドイツではder Butter」と書かれていたのでした。
こんなによく使われる単語で、名詞の性に地域差があるとは全く知らなかったので、とても大きな衝撃を受けると同時に、どこか安心している私もいたことに気づきました。
最後に:違和感から深める知識
学校で教えられる標準変種である標準ドイツ語を学んでから、あるいは学びながら実際にドイツ語を使って生活してみると「あれ?学校で習ったのと違う…。」という経験をすることは、きっと多くの方が経験していると思います。
そしてその経験から新たに得られる知識というのは、定着もしやすいように思えます。
これは地域変種との接触のみに制限されるものではないと思います。
そして、学校に通う学習者ではなくなり、実際にドイツ語を使いながら生きている人たちは、アクティブな学習者であった時に比べれば確かに新しい発見や学習経験は少ないかもしれませんが、思わぬところで知識が繋がったり、自分がこれまでに身につけ当たり前のものとして扱っていた言語知識が、地域や世代など様々な要因で起こる違いによりさらに新しい知を得ることで深まっていくという体験をすることもあるでしょう。
そういう意味で私たちは一生学習者であり、ことばの深みにはまっていく道を歩んでいるのかもしれません。
参考資料
Digitales Wörterbuch der deutschen Sprache: https://www.dwds.de/
日本でドイツ語言語学を専門に修士号をとったのち、ドイツへやってきて7年が経過しました。ドイツ語と日本語を日常で使いながら生活する中で気づいたことばに関するお話を、言語学の専門知識を織り交ぜながらこのブログの中でお伝えできればと思います。
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