ドイツの難民問題

2024年8月にドイツ西部の都市ゾーリンゲンの祭りで3人が刺殺されるというショッキングな事件が発生しました。

主要容疑者が強制送還に直面していた26歳のシリア難民だと明らかになると、現行の難民法をめぐってドイツ国内では議論が激しくなり、難民法をより厳格化することが決定されました。

ドイツ政府は、これまでに犯罪歴があり、「要注意人物」とされていた計28人のアフガニスタン難民をアフガニスタンのカブールに強制送還しました。

ドイツ政府がアフガニスタンからの難民を同国に送還したのは、約3年前にタリバンがアフガニスタンの政権を掌握して以来、初めてのことです。

 

2015年のスローガン「Wir schaffen das!」

 

ヨーロッパ諸国に中東やアフリカなどから100万人を超す難民が殺到した2015年の欧州難民危機の時、当時の首相だったアンゲラ・メルケルが内外の反対を押し切り、ハンガリーで立ち往生していたシリア難民らに事実上国境を開放して、ドイツで亡命申請することを許可しました。

その時の彼女が国民に向けて言った「Wir schaffen das!」という言葉に共感を受けたドイツ人の人道支援活動は本当に素晴らしく、地域の体育館に大量の仮設ベッドを設営したり、自宅で余っている寝具や衣服、玩具などの寄付を地域で募ったりと、近所に住むドイツ人達が、シリア難民のためにサポートする姿を目の当たりにした当時の私は、「ドイツとはなんて難民に寛大な国なのか!」と感動したものです。

しかし、やはりキャパを大幅に超えた難民の受け入れに、自治体が悲鳴をあげるのは時間の問題であり、また「社会保障の充実したドイツに難民としてやってきたのだから、支援を受けて当然」という難民が一部いたことにガッカリし、ボランティアをやめていく人もいました。

あれから9年、メルケルさんの「Wir schaffen das!」という言葉は空回りしてしまった感じが否めません。

 

 

避難民の不平等な扱い

 

ドイツの人口の約4パーセントを避難民が占めており、その多くが田舎よりも仕事のチャンスが多い都市部に住んでいます。
2023年の統計では、ドイツ国内の避難民の31パーセントがウクライナから、22パーセントがシリア、10パーセントがアフガニスタン、6パーセントがイラク、その他が30パーセントとなっています。
実は同じ難民であっても、その扱いには大きな差があり、ロシアのウクライナ侵攻によってドイツに逃れてきたウクライナ人は、難民申請をすることなく保護対象となり、最初からドイツの社会保障を受けることができ、移住の自由、労働許可などの権利が認められ、無料のドイツ語コース、またドイツで職についていない場合は、Bürgergeldと呼ばれる毎月の援助金が国から支払われます。

一方、シリアやアフガニスタン等、他国からの避難民は、このような権利を受けるために、まず難民申請を行い、何か月も何年も許可が降りるのを待たないといけません。

これに対して、ヨーロッパ人であるウクライナからの避難民は「特別待遇」を受けているため、その他の国からの避難民の間で不満が募っています。

 

現在ドイツでは反移民・難民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しており、ドイツの難民をめぐる社会状況は大きな転換期を迎えようとしています。

また今後、「犯罪者」や「危険人物」に含まれないアフガニスタン難民も、アフガニスタンへ送還される可能性があるかもしれないため、人権活動家は、「死刑、拷問、誘拐」が日常茶飯事であるタリバン政権下のアフガニスタンへの送還を厳しく非難しています。

予断の許さない国に避難民を送還するのは人道的に許されることなのか、難民問題の難しさを痛感します。

 

 


参考ウェブサイト

https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/arbeit-und-soziales/buergergeld-ukrainische-gefluechtete-2293164

https://www.tagesschau.de/inland/gesellschaft/gefluechtete-abschiebung-100.html

https://www.tagesspiegel.de/politik/1000-euro-handgeld-fur-jeden-deutschland-schiebt-28-straftater-nach-afghanistan-ab-12283310.html

 

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