自然豊かな中央スイスの町シュタンス
目次
これまでにかなり多くの名所をご紹介させていただきましたが、それらは基本的にスイスの主要都市でしたので、都市観光には最適である一方、旅行を楽しむ人の中には自然体験や様々なアクティビティに重点を置く方も少なくありませんので、そのような場所を求める人は過去の記事で採り上げてきた内容にあまり関心がなかったのではないでしょうか?
しかし、スイスはむしろ大自然を堪能できる場所が大半を占めるため、屋外で楽しむそれぞれの興味や趣味に応じた目的地もたくさんあります。
そして、スイスの自然は言うまでもなく壮大で日本では決してお目にかかることができない美しさで溢れています。
そこで、今回は都市観光よりも自然に触れるのが好みだという方にピッタリである田舎のロマンが満載なニトヴァルデン準州(Kanton Nidwalden)の州都シュタンス(Stans)をご紹介いたします。
アイトゲノッセンシャフトの創設メンバーである原三州のひとつ
シュタンスはルツェルン(Luzern)から僅か10数キロ南に向かったビュルゲンシュトック(Bürgenstock)、シュタンサーホルン(Stanserhorn)およびブエフサーホルン(Buochserhorn)の三山に囲まれた中央スイスの平地に位置します。
考古学研究によると青銅器時代から当該地域に人間が住んでいたことが分かっていますが、定住地として利用されたのは紀元前2世紀以降とされています。
したがって、「シュタンス」という地名も元々はローマ帝国が付けた「池」を指す「スタグヌム」(Stagnum)に由来すると考えられており、それが後に「スタンネス」(Stannes)に変わって現在の呼び方になったのです。
シュタンスに関する古い文献が殆ど存在しないことから、その起源については謎が多いものの、遅くとも1100年には複数の修道院や貴族の荘園であったことが確認されています。
その中にはハプスブルク家も含まれており、所有権の購入や寄付を経てシュタンスを含む現在のニトヴァルデン準州および隣接するオプヴァルデン準州(Kanton Obwalden)の大半を手中に収めたのです。
当時、上記両州は「森の間の場所」を指す「ウンターヴァルデン」(Unterwalden)と呼ばれていた複数の里から構成される地域でした。
そして、それぞれ里の民は傭兵として長きに渡って神聖ローマ皇帝に仕えたことで自治権を与えられるも、ハプスブルク家はそれを認めず、引き続きウンターヴァルデンにおける支配権を行使したのです。
そこで、ウンターヴァルデンの民は自治権の正当性を主張して、それを確実なものにするため、1291年に同様な状況にあった2カ国と同盟を結んでアイトゲノッセンシャフトを結成しました。
これを機にハプスブルク家との度重なる衝突が勃発し、最終的にアイトゲノッセンシャフトが勝利したことで念願の自由を手に入れ独立国となったのです。
また、地域名としては存在していたウンターヴァルデンですが、実はそれぞれの里にはさほど一体感がなく、元から上下の2つの区域を成していたこともあって、14世紀半ばには両区域で独自の民主国家が設立されていました。
したがって、現在のスイス連邦にウンターヴァルデン州は存在しておらず、「森の上」を意味するオブヴァルデンと、今回ご紹介するシュタンスが州都でもある「森の下」を表すニトヴァルデンに分かれており、それぞれが準州という位置づけになっているのです。
スイスの歴史を大きく左右した出来事の舞台
シュタンスは州都でありながらも人口が僅か8000人ほどで、農地や森林地が市の面積の約80%を占めていることから、スイスの地方に行けばどこにでもありそうな農村の特色を持っています。
実際のところ、教会が建つ中央広場を中心に星形に複数の路地が延びており、歴史を感じさせる古民家が連なりますが、中心部を少し離れるとすぐに牛がのんびりと過ごしているのどかな牧草地や畑の風景が広がります。
そのため、観光地としてさほどの魅力がないと思われがちである一方、原始的なスイスが色濃く残っているレクリエーションエリアであるとも言えます。
また、シュタンスは歴史的に見てもアイトゲノッセンシャフトのために度々重要な役割を担った場所であり、スイス史を知る上で欠かせない史跡が複数あります。
まず、上記で述べた通り、ニトヴァルデンは700年以上も続くスイス連邦の基礎を築いたアイトゲノッセンシャフトの創設メンバーに数えられます。
続いて、1386年にハプスブルク家からの解放を決定づけたとされるセンパッハの戦い(Schlacht von Sempach)で勝利を引き寄せたのは過去の記事でもご紹介したシュタンス出身のアルノルト・フォン・ヴィンケルリートという人物でした。
さらに、アイトゲノッセンシャフトは都市州と地方州の間に意見の食い違いが生じたことで一時崩壊の危機を迎えましたが、1481年に締結された「シュタンス条約」(Stanser Verkommnis)のお陰で当同盟は解散を免れたのです。
そして、1798年にスイスがフランスの衛生国家にされた際に「ニトヴァルデンの恐怖の日々」(Schreckenstage von Nidwalden)と呼ばれる破壊と大虐殺の被害を招いてアイトゲノッセンシャフトの存続のために最後まで抵抗したのもまたシュタンスとその周辺地域でした。
このように、歴史を振り返るとシュタンスはスイス連邦の存続を左右した数々の出来事の舞台となった場所ですので、小さな田舎町でありながらも一度は巡っておくべき史跡がたくさん存在します。
様々なアウトドアアクティビティが堪能できる楽園
タイトルにも記載しているように、シュタンスの最大の魅力はやはりその周辺一帯に広がる大自然です。
シュタンスは標高1800メートルを超える「シュタンサーホルン」と「ブエフサーホルン」に加え、あのオードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)が晩年を過ごしたことでも有名な「ビュルゲンシュトック」という3つの名山に囲まれています。
また、「フィアヴァルトシュテッターセー」(Vierwaldstättersee)や「アルプナッハセー」(Alpnachersee)といった湖も近距離に位置することから、登山から水上スポーツまで様々なアウトドアアクティビティが楽しめることで有名な場所です。
そのため、年間を通して国内外から多くの観光客がハイキングとトレッキングを始め、それぞれの山でハンググライダーやパラグライダーの他、ロッククライミングを楽しむために訪れます。
一方、湖ではカヌー、カヤック、スタンドアップパドル、セーリング、さらにはウィンドサーフィンが人気なレジャー活動で、暖かい季節には道具を持参しない限り、各種レンタルの予約がなかなか取れないほどです。
しかしながら、観光客の中にはそこまで本格的なアクティビティを求めない方もいますので、そのような人には身体的な負担が殆どなくて自然を堪能できる楽しみ方も多数ございます。
というのも、シュタンスには市街地とシュタンサーホルンの山頂を結ぶケーブルカー(シュタンサーホルン鉄道)があり、天気のいい日には頂上で爽やかな風を受けながらアルプスのパノラマを一望することが可能です。
しかも、シュタンサーホルンに登るケーブルカーは下部の登山列車と上部の空中索道に分かれており、前者は1893年に開業した世界最古のキャリパーブレーキを使用するケーブルカーで、後者は2012年に完全リニューアルされた世界初で現在も唯一のオープンデッキゴンドラ空中索道であることで有名です。
したがって、アウトドアアクティビティに関心がない人でも、ノスタルジック感と最新技術を融合させたケーブルカーを体験しながらシュタンスの豊かな自然を満喫できます。
ヨーロッパ各国と繋がっている玄関口がある
シュタンスを訪れる際に時間とお金に余裕があるという方にはさらに魅力的なもうひとつのアクティビティがあります。
実はシュタンスには意外なことに飛行場が存在し、ヘリコプターや小型機に乗ってアルプスを始め、見渡す限りに広がる大自然を空から眺められる遊覧飛行の体験も可能なのです。
これらが実施される飛行場は複数の市町村に跨るため、管制塔が建っている隣町に因んで「ブエフス飛行場」(Flugplatz Buochs)の名称で知られていますが、滑走路の一部はシュタンスの北東部に位置するので、市街地からバスに乗って数分の場所にあります。
ただし、遊覧飛行は運行する航空機の数に限りがあることから、当然ながら事前予約がないと体験するのが難しいです。
また、多数の飛行プランがある他、予算に応じて飛行ルートや飛行時間は基本的に交渉可能なため、中央スイスのみならず、スイス各地の上空もお散歩できます。
そして、最も驚くべきなのは、何と国外行きのプライベート便をチャーターしたり、他の人が依頼した国際便に同乗したりするのも可能なことです。
これは大半の観光客にとってあまりにも豪華すぎるのでなかなか手が出ませんが、ハネムーンなどで一生忘れない思い出を作りたい方ならシュタンスを玄関口にして専用機でフランスやオーストリアなど他の国も見て周るのはこれ以上ない贅沢です。
安全性を考慮して天候によってはフライトが中止される場合もあるものの、遊覧飛行は季節を問わず年間を通して楽しめるアクティビティとなっています。
さらに、スイスにおいては都会ではまず体験できない田舎町ならではのレジャー活動ですので、シュタンスを訪問される際に機会があれば絶対に堪能すべきです。
いつもは主に都市の特色が強い名所をご紹介させていただいていますが、今回はそれらとは対照的な地方の町に関するご説明でした。
都会に比べて風情漂う旧市街がなかったり、様々な娯楽施設が限られていたりするものの、都会ではまず体験できない田舎ならではの魅力がたくさんあることを感じていただけたのではないでしょうか?
特にシュタンスに関しては世界的に見ても珍しいケーブルカーが観光ガイドなどに掲載されている一方、様々な方法で豊かな自然を味わえるレジャーアクティビティが豊富な場所であることまでは殆ど採り上げられていません。
したがって、本ブログを通して皆様にシュタンスが旅行先の候補として検討できると思っていただけたのであればこれ以上嬉しいことはございません。
とはいえ、旅行の楽しみ方は人それぞれですので実際の滞在期間をどのように過ごすかは各々に委ねますが、ルツェルンなど中央スイスをご訪問される際はシュタンスにも立ち寄ることを強くお勧めいたします。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
南 | Süden
(スューデン) |
Süde
(スューデ) |
平地 | Ebene
(エーベネ) |
Ebeni
(エーベニ) |
一体感 | Gemeinschaftsgefühl
(ゲマインシャフツゲフュール) |
Gmeinschaftsgfühl
(グマインシャフツクフュール) |
森林地 | Forstgebiet
(フォア―ストゲビート) |
Forschtgebiät
(フォルシュトゲビエト) |
史跡 | historische Stätte
(ヒストーリシェ・シュテッテ) |
historischi Schtätti
(ヒストーリシ・シュテッティ) |
ロッククライミング | Felsenklettern
(フェルゼンクレッターン) |
Felsechlättere
(フェルセフレッテレ) |
ゴンドラ | Gondel
(ゴンデル) |
Gondle
(ゴンドレ) |
飛行時間 | Flugzeit
(フルークツァイト) |
Flugziit
(フルークツィート) |
ハネムーン | Flitterwochen
(フリッターヴォッヘン) |
Flitterwuche
(フリッテルヴッヘ) |
中止する | absagen
(アプサーゲン) |
absäge
(アプセゲ) |
参考ホームページ
シュタンス市オフィシャルサイト
ツーリズムシュタンスオフィシャルサイト
https://www.tourismusstans.ch
ニトヴァルデン州観光庁オフィシャルサイト
スイス歴史辞典:シュタンス市
https://hls-dhs-dss.ch/de/articles/000755/2012-04-19/
スイス歴史辞典:ニトヴァルデン州
https://hls-dhs-dss.ch/de/articles/007411/2017-05-11/
シュタンサーホルン鉄道オフィシャルサイト
ブエフス飛行場運営会社「エアポート・ブエフス株式会社」オフィシャルサイト
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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