スイス人が得意とする五輪競技

 

4年に一度の大イベントであるオリンピック開幕までいよいよ1ヶ月を切りましたね。

今回はセーヌ川で過去最大規模の開会式やパリ市内の名所が競技場になるなど見どころが満載な大会になると報じられており、楽しみにしている方も少なくはないでしょう。

とはいえ、大半の方が実際に関心を持っているのは競技であり、選手の熱い戦いが生み出すドラマや感動に心を打たれるのが最大の魅力ではないでしょうか?

日本の皆様にとってはやはり日本発祥のスポーツである柔道、そして東京五輪で新種目として加わり、連覇が掛かっているスケートボードやリベンジを果たしたいサーフィン、スポーツクライミングといった競技が注目の的になるかと思います。

さらに、今大会で初めて採用されるブレイキンも見逃せませんね。

そんな、ワクワクどきどきするオリンピックが待ち構えていますが、皆様はオリンピックにおけるスイスの存在についてはどのような印象を持っていますか?

スイスは雪国であるため、冬季オリンピックでは度々表彰台に登るものの、夏季オリンピックに関してはあまりイメージが沸かないのではありませんか?

そんなこともあろうかと思い、今回は夏のオリンピックでスイス人選手も少なからず活躍していることを知ってもらうために、スイス人が得意とする五輪競技についてご紹介させていただきます。

 

スイス人選手が歴代オリンピックで最も多くのメダルを獲得した競技とは?

 

スイス人がどの五輪競技を得意としているのかを知るためには、過去のオリンピックで最も多くのメダルを獲得した競技を探るのが一番手っ取り早い方法です。

そもそもスイス人が得意であると呼べるような競技が存在するのかを疑問に思っている方もいるでしょうが、スイスオリンピック委員会(Swiss Olympic Association)のホームページに掲載されている資料を確認すれば、それが実在することが分かります。

当資料によると、スイスは全ての夏季オリンピックを通して合計205個のメダルを獲得しており、その4分の1近くに当たる49個をなんとひとつの競技で集めているのです1

さて、ここで皆様に質問です:その五輪競技とはいったい何だと思いますか?

 

正解は「体操」です!

 

体操と言えば、つい最近まで内村航平選手が絶対的王者として君臨していたこともあって、スイスではなく日本のお家芸という印象を持っている人も少なくはないでしょう。

日本においてもそうだと思うのですが、世界選手権などで自国が特定の競技や種目で強いのは期間が限定されていることが多いため、世代を問わずに「我が国はこのスポーツで常にトップです」と言えるものはなかなかないのが現状です。

 

したがって、特定の選手たちが活躍し、輝かしい成績を残した時代を後世の人が「黄金世代」と呼んだり「あの時は強かったのにな」と過去を懐かしんだりすることも少なくありません。

これはスイスに関しても全く同じで、スイス人選手が体操競技でメダルを量産したのは概ね1896年のアテネ大会から1952年のヘルシンキ大会までで、それ以降のオリンピックでは金メダル1個(1996年)と銅メダル1個(2016年)しか獲れていません。

つまり、歴代五輪大会を振り返ればスイスにとって体操は最も得意な競技であると言えるものの、それが世界的にスイスの代名詞として根付いていたのは1950年代までで、20世紀後半以降は目ぼしい結果を殆ど残せていないことから、現代人の中で「スイス=体操」のイメージを抱いている人はもはやいないのが実情です。

 

高確率でメダルの獲得が見込めるのは射撃、馬術、ボート、自転車競技

 

体操以外にスイス人選手が歴代オリンピックを通して多くのメダルを獲得した競技としては「射撃」、「馬術」、「ボート」、そして「自転車競技」が挙げられます。

それらに関しては体操と違って、一定の期間にメダルを量産した訳ではなく、第1回のアテネ大会から前回の東京大会までに度々表彰台の上に立って、通算でメダルの獲得数を増やしてきた傾向が見受けられます。

この事実はスイスがそれらの4つの競技において時代を問わず常時優秀な選手を輩出してきたことを裏付けているので、考え方によっては射撃、馬術、ボート、ならびに自転車競技を本当の意味でスイス人が得意とする競技と呼ぶことができます。

オリンピックにおけるメダルの合計数を見ても、射撃23個、馬術23個、ボート24個、自転車競技25個となっており、この4競技だけでスイス人が今まで獲得したメダルの約半分を占めているのが分かります。

したがって、スイスに関しては「柔道なら日本」、「短距離走ならジャマイカ」、「サッカーならブラジル」などと異なり、優勝がほぼ確実とされる1つの得意競技がなく、複数の競技や種目において高確率で表彰台に上がる選手がいると言った方が適切かもしれません。

また、スポーツに詳しい人であれば、上述の体操も含め、射撃、馬術、ボート、ならびに自転車競技が何れも個人競技で、力より技術やテクニックが求められるものであることに気付きます。

つまり、スイス人は体格の差が結果を左右しやすい競技やチームプレーが必須の団体競技が比較的苦手で、個人の技術力で勝敗が決まる競技や種目で勝負強さを発揮することが多いと言えます。

そのような動向を踏まえ、オリンピックでスイスがどのようなところで活躍するかを問うと、技術的なスキルがものを言う個人競技に着目されるといいでしょう。

 

自転車競技の新種目に注目

 

これまでは全オリンピックを通してのお話をさせていただきましたが、オリンピックで採用される競技や種目は時代と共に変化または進化し、その内容にも大きな変容が見られます。

それに伴い、各国が得意とするスポーツも変わりつつあって、時にはメダルの獲得数を大幅に左右することすらあります。

その代表例のひとつであるのが先ほど既に言及した自転車競技です。

オリンピックにおける自転車競技は従来男子種目しかなかったものの、この40年間で各種女子種目が追加されたほか、ケイリン、オムニアム、マディソン、マウンテンバイクやBMXなどが新たな種目として加わりました。

中でも、1996年のアトランタオリンピックで初めて採用された「マウンテンバイク」に関しては、2004年のアテネオリンピックを除いてスイス人選手が毎回メダルを獲得してきた種目です。

特に、前回の東京オリンピックで女子クロスカントリーではヨランダ・ネフ(Jolanda Neff)スィナ・フライ(Sina Frei)、ならびにリンダ・インダーガンド(Linda Indergand)のスイス人3名がなんと表彰台を独占し、金銀銅の全てのメダル勝ち取るという異例の結果まで残しました。

また、東京2020で新規採用となったBMXフリースタイルでもニキータ・デュカロー(Nikita Ducarroz)が銅メダルを獲得するなど、自転車競技に関しては古くから親しまれている種目だけでなく、新種目でもスイス人が幅広く活躍する姿が見られます。

そして、来月開幕するパリオリンピックにおいても自転車競技でそれらを含む計22の種目が実施されますので、スイス人選手が全部で何個のメダルを持ち帰ることができるのかに是非注目してください。

 

 

近年はテニスがスイス人の得意競技になっている?

 

ここまでのお話でスイス人が得意とする競技や種目が大体把握できたと思いますが、実は体操が過去にスイス人の得意な競技だったのとは逆に、元々得意ではなかったにも拘わらず、最近になってスイス人が突然目立ち始めた競技もございます。

その競技とは名前を聞いて驚く人もいれば、世界選手権で特定の選手の優勝回数を見れば納得する方も多い「テニス」です。

五輪競技としてのテニスは第1回から第8回大会まで採用され、その後外されたものの、1988年以降は再び正式種目として復活した経緯があります。

その長い歴史の中でスイス人選手は1992年のバルセロナ五輪でマルク・ロッセ(Marc Rosset)が男子シングルスで金メダルを獲ったことを除けば表彰台に上がることは一度もなかったのです。

ところが、2008年の北京大会を機にオリンピックで毎回銀以上のメダルを獲得するという輝かしい成績を残しました。

これは、皆様もよくご存知であろうロジャー・フェデラー(Roger Federer)マルティナ・ヒンギス(Martina Hingis)などテニス界をけん引する凄腕スイス人プレイヤーがいたことが最大の要因です。

とはいえ、前回の東京大会で女子シングルスでの優勝に加え、女子ダブルスでも準優勝したベリンダ・ベンチッチ(Belinda Bencic)は、偉大な先輩たちの後継者となる若手スイス人選手もちゃんと育っていることを全世界に示しました。

したがって、2024年のパリ大会のみならず、今後のオリンピックでもテニスにおけるスイス人の活躍が大いに期待できます。

さらに、テニスに関しては優勝を狙える可能性が十分ある日本人テニスプレイヤーもいますので、皆様も目が離せないのではないでしょうか?

そして、運が良ければ日本人とスイス人の選手が直接対決で繰り広げる名勝負も見られるかもしれませんね。

 

 

スイス人が得意とする五輪競技のご説明は以上になりますが如何でしたか?

普段あまり知る機会がない内容でしたので、オリンピックを楽しむきっかけが増えたと感じていただけたのであればこれほど嬉しいことはありません。

とはいえ、皆様の中にはそもそもオリンピックにさほど関心がなく、今回のお話にもご興味を持たれなかったと言う人もいるかと思います。

そんな人には本記事がせめてスイス人のスポーツ事情に関する視野を広げるために役立ったことを願っています。

また、スポーツとの関わり方は当然ながら人それぞれ異なり、特定の競技のみを観戦する、もしくは自国の選手だけを応援するのも大いに結構ですが、他国の選手の中で自分だけの「推し」を見つけたり、今まで関心がなかった競技に注目したりすると、意外と新たな楽しみ方も発見できますよ。

したがって、パリオリンピックでは様々なアプローチを試みて、スイス人選手にも注目してみてくださいね。

では

Bis zum nöchschte mal!

Birewegge

 

1出典:スイスオリンピック委員会:

https://www.swissolympicteam.ch/dam/jcr:de0bc132-a621-4dfe-8f10-6f1e6fa9a27e/Anzahl_Medaillen_Sommerspiele_nach_Sportarten_DE.pdf


今回の対訳用語集

日本語 標準ドイツ語 スイスドイツ語
開幕する anfangen

(アンファンゲン)

aafange

(アーファンゲ)

開会式 Eröffnungsfeier

(エアーエッフヌングスファイアー)

Eröffnigsfiir

(エルエッフニクスフィール)

体操 Turnen

(トゥアネン)

Turne

(トゥルネ)

射撃

(競技として)

Sportschießen

(シュポアトシーセン)

Schportschüsse

(シュポルトシューセ)

馬術

(競技として)

Reiten

(ライテン)

Riite

(リーテ)

ボート

(競技として)

Rudern

(ルーダーン)

Ruedere

(ルエデレ)

半分 Hälfte

(ヘルフテ)

Hälfti

(ヘルフティ)

短距離 Kurzstrecke

(クアツシュトレッケ)

Churzschtrecki

(フルツシュトレッキ)

勝負強さ Wettkampfstärke

(ヴェットカンプフシュテアケ)

Wettchampfschtärchi

(ヴェットハンプフシュテリヒ)

異例 außergewöhnlich

(アウッサーゲヴェーンリッヒ)

ussergwöhnlich

(ウッセルグヴェーンリフ)

 

参考ホームページ

スイスオリンピック委員会オフィシャルサイト

https://www.swissolympic.ch

スイスオリンピック委員会オフィシャルサイト:スイスが夏季オリンピックで獲得した全メダル

https://www.swissolympicteam.ch/dam/jcr:40454b88-f3da-4c28-a9b6-aaa78ca85b34/Alle_Schweizer_Medaillen_Sommerspiele_seit1896_DE.pdf

スイスオリンピック委員会オフィシャルサイト:夏季オリンピックで獲得したメダル数(競技別)

https://www.swissolympicteam.ch/dam/jcr:de0bc132-a621-4dfe-8f10-6f1e6fa9a27e/Anzahl_Medaillen_Sommerspiele_nach_Sportarten_DE.pdf

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