スイスドイツ語講座その13:食べ物(後編)
目次
皆様、お久しぶりです。
前回のスイスドイツ語講座では食べ物について色々とご紹介させていただきましたが、野菜に関するお話のみで終わってしまいましたよね?
食べ物は生活していく上で非常に重要で、ネタもそれなりに多いことから、1回の講座では到底収まり切らず、せめて2回にわたってじっくりとご説明したいと判断しました。
したがって、今回のスイスドイツ語講座は「食べ物(後編)」と題して、前編で採り上げた野菜に引き続き、様々な場面で触れる機会のある内容の話をさせていただきます。
BürliまたはMutschliで知られるロールパン
観光や出張でスイスを訪れる人だけでなく、スイスに住んでいる方も同様に日々目にする食べ物と言えばパンではないでしょうか?
パンは朝食の定番であると同時にドイツ語圏では主食でもあるので、サイズや形に加え、材料も異なるバラエティー豊かな種類が存在します。
その中で最も代表的なものが小さくて丸いロールパンです。
日本の皆様にとってのロールパンは外が柔らかく、中がモチフワ食感になっているのが特徴的でしょうが、ドイツ語圏では外がカリッと歯ごたえがあって、中は空気を取り込んだふっくらした焼き上がりが当たり前です。
とはいえ、場所によっては多少の差異がありますし、呼び方もまた統一されていません。
ドイツに関してはロールパンが通常の1キロもしくは1ポンドの塊パンに比べて小柄なことから、それを「小パン」を表す「ブレートヒェン」(Brötchen)と称します。
一部地域では「センメル」(Semmel)の別名を用いるのが主流であるものの、現在はどちらも全国的に通じる単語です。
スイスでもそれらの名称は一応理解されますが、一般的には使われていないので、パン屋さんで「ブレートヒェン」と言ったら店員が少し戸惑った顔を示します。
というのも、スイスでは通常「ビュールリ」(Bürli)と「ムッチュリ」(Mutschli)が使用されている名称だからです。
前者はチューリッヒを含め、主にスイス北部と東部の呼び名であるのに対し、後者は中央スイスや西部のスイスドイツ語圏においてメジャーな言い方として知られています。
どちらにも指小接尾辞の「-li」が付いているだけあって、標準ドイツ語と同様に本来サイズが大きいパンに比べて小規模バージョンである点では発想が似ていますが、その語源となったパンの種類が異なるため、このような名称の違いが生じたのです。
クロワッサンはスイスでGipfeli
また、パンで欠かせないのが皆様も大好きな「クロワッサン」ではないでしょうか?
ご存知の通り、クロワッサンはバターをパン生地に折り込んで焼き上げる、サクサク感が特徴的なフランス生まれの名物です。
多くの国ではフランス語で三日月を意味する「クロワッサン」(Croissant)という名前をそのまま引き継いでいる一方、ドイツ語圏では三日月との連想が合わなかったせいか、別な呼び名を使っています。
クロワッサンは動物の角にも見えるので、標準ドイツ語では小さな角を指す「ヘルンヒェン」(Hörnchen)が一番頻繁に使用される呼称です。
因みに、中国においてもこの発想に基づいてクロワッサンを「ヤンジャオミエンバオ」(羊角麺包)や「ニュウジャオミエンバオ」(牛角麵包)と呼んでいます。
しかし、オーストリアでは角よりも鉾のようなものを思い浮かべたことから、ドイツ語で元々尖った杭を表していた「キップフェ」(Kipfe)に由来する「キップフェルル」(Kipferl)がクロワッサンの正式名称となっているのです。
そして、スイス人もまたその考えに共感を得たと思われるため、オーストリアの言い方をスイスドイツ語風に変えて「ギップフェリ」(Gipfeli)としています。
このように、ドイツ語圏の中でスイスとオーストリアが共通の言い方を持ち、標準ドイツ語のみに独自の表現があることも稀に見受けられます。
喫茶店でよく耳にするSchaleとKafirahm
続いて、場所や時間を問わず、大半の方は移動先であっても喫茶店やカフェでコーヒーを飲みながらちょっとした休憩を取るのが習慣になっているかと思います。
ドイツ語でコーヒーは「カッフェー」(Kaffee)と言い、これは地域に関わらずドイツ語圏全域で使用されている呼び方です。
スイスに関しては標準ドイツ語を変形して生まれた「カフィ」(Kafi)という愛称またはフランス語の「カフェ」(café)も頻繁に耳にします。
ただし、それらはいずれも通常のコーヒーを指し、コーヒーをベースとする他の飲料についてはそれぞれ異なる名称が当てられていることに注意しなくてはなりません。
一部のお店においてはミルクコーヒーを「カフェラテ」と称している一方、ごく普通のドイツの飲食店ではそれを「ミルヒカッフェー」(Milchkaffee)として提供しています。
ところが、スイスに足を踏み入れればミルクコーヒーがなんと「シャーレ」(Schale)という独自の名前を持っています。
これは牛乳を追加する際に通常サイズのコーヒーカップに入りきらず、お椀(ドイツ語で「シャーレ」)のような少し大きめの器を使用することから付いた名前です。
また、コーヒーと言えばクリームが付き物ですよね?
日本ではほぼ全ての喫茶店で「フレッシュ」として知られる植物性脂肪に乳化剤を加えたクリーム状の液体をコーヒーに入れるのが一般的であるのに対して、ドイツ語圏では必ず乳脂肪を含む本物の生クリームを使用します。
そのため、ドイツに関しては生クリームを表す「ザーネ」(Sahne)に因んで、コーヒー用の小さな容器に入ったクリームを「カッフェーザーネ」(Kaffeesahne)と言います。
そして、スイスでは生クリーム自体を「ラーム」(Rahm)と呼んでいることから、コーヒークリームもそれに応じて「カフィラーム」(Kafirahm)としているのです。
GlaceとCoupe
また、カフェや喫茶店で忘れてはいけないのがスイーツです。
飲食店で定番の甘味と言えばやっぱりケーキやアイスクリームを使った様々な品々ではないでしょうか?
ケーキは標準ドイツ語でバウムクーヘンでもお馴染みの「クーヘン」(Kuchen)として知られており、スイスドイツ語でも同じ言葉を少し訛らせた「フエヘ」(Chueche)と呼んでいます。
一方、アイスクリームに関してはドイツにおいて「氷」を指す「アイス」(Eis)と称する習慣がありますが、ドリンクに入れる通常の氷と区別するため、「食用アイス」、即ち「シュパイゼアイス」(Speiseeis)の言い方を用いるのが正解です。
それに対してスイス人は氷をドイツと同様に「アイス」と表現するものの、アイスクリームには「グラッセ」(Glace)というフランス語由来の呼称を当てています。
ここで1点注意しなくてはならないのが、フランス語ではアイスクリームを「グラス」と発音し、「グラッセ」はその形容動詞で、「凍っている」または「冷えている」を指していることです。
スイスドイツ語の言い方が意図的に形容動詞の意味で使っているのか、単に語尾の「e」を黙字にしないことに起因するのかは不明ですが、興味深いことにルクセンブルクでもアイスクリームを「グラッセ」と表現しています。
とはいえ、多くのカフェやレストランで提供しているアイスクリームは単品で出てくることがほぼ皆無で、他の食材と混ぜ合わせた料理に登場しますよね?
日本においてはそのような形状でのアイスクリームを「パフェ」や「サンデー」として区別しているように、ドイツもまた「アイスベッヒャー」(Eisbecher)という異なる呼び方があります。
ところが、スイスドイツ語はここでも標準ドイツ語ではなく、フランス語の言い方である「クープ」(Coupe)を用いるのが一般的です。
日本人にとって「クープ」は聞き慣れない言葉かもしれませんが、ヨーロッパの各国では「クープ・ネッセルローデ」(Coupe Nesselrode)や「クープ・デンマーク」(Coupe Danmark)など複数のパフェの正式名称に採用されている表現ですので、むしろパフェを表す語としては広く認識されています。
皆様に知っていただきたい食べ物と飲み物に関するスイスドイツ語はまだまだございますが、区切りの良い所で終わらせないと、止まらなくなってしまいますので、この辺で終了とさせていただきます。
今回は1つの分野に留まらず、色々なシチュエーションにおいて高い確率で遭遇するものをご紹介させていただきましたので、現地を訪れた際は是非本講座の 内容を思い出して活用してみてください。
今回の単語は頻繁に使用する機会がありますので、自分から積極的にスイスドイツ語を話す勇気のある方はどんどん使うことをお勧めします。
また、会話が苦手な人はまずレストランのメニュー表を見ながら「これはスイスドイツ語講座で採り上げていたから分かる」といった経験をして、スイスドイツ語との距離を縮めましょう。
何をするにも努力が基本と言いますが、自分のペースで楽しくやった方が著しい成長が見込めますので、皆様も無理をせずにスイスドイツ語のお勉強を頑張ってください!
では
Bis zum nöchschte Kafi!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
ロールパン | Brötchen/Semmel
(ブレートヒェン/センメル) |
Bürli/Mutschli
(ビュールリ/ムッチュリ) |
鉾 | Spieß
(シュピース) |
Schpiäss
(シュピエス) |
クロワッサン | Hörnchen
(ヘルンヒェン) |
Gipfeli
(ギップフェリ) |
注文 | Bestellung
(ベシュテルング) |
Bschtellig
(プシュテリク) |
カフェラテ | Milchkaffee
(ミルヒカッフェー) |
Schale
(シャーレ) |
生クリーム | Sahne
(ザーネ) |
Rahm
(ラーム) |
コーヒークリーム | Kaffeesahne
(カッフェーザーネ) |
Kafirahm
(カフィラーム) |
氷 | Eis
(アイス) |
Iis
(イース) |
アイスクリーム | Speiseeis
(シュパイゼアイス) |
Glace
(グラッセ) |
パフェ | Eisbecher
(アイスベッヒャー) |
Coupe
(クープ) |
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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