ドイツの粗悪語大賞2023 Unwort des Jahres 2023

 

毎年1月にドイツ語協会(Gesellschaft für deutsche Sprache e. V.)から発表される『粗悪語大賞』(Unwort des Jahres)

2023年の粗悪語大賞は2024年1月15日に発表されました。

その年の粗悪語/Unwortは、不適切な表現とされる言葉を一般公募し、審査員たちによってその中から選出されます。

流行語大賞とは違う側面からみるドイツの現在がわかるのではないでしょうか。(2022年の粗悪語大賞の記事はこちら

写真はイメージです

 

2023年の粗悪語大賞第一位はRemigration

 

2023年の粗悪語大賞にはRemigrationが選出されました。

この単語の本来の意味は、移民が自国へ再び帰国することを指しており、移民・亡命研究の分野においては、主に1945年以降のユダヤ人の祖国への自発的な帰還を意味する概念でした。

しかし昨今では、反移民政策をとる右派および極右政党やアイデンティタリアン運動の活動家らが、その本来の意味をすり替えて、不適切な言語利用をしていることに対する批判から第一位に選出されました。

 

ドイツ国内では、2015年に起こったシリア危機をきっかけとした難民危機を経て、2021年から再び流入が増加し、移民難民の受け入れは全国の自治体を圧迫しており深刻な社会問題となっています。

しかし、反移民政策を掲げる極右政党とされるAfD(Alternative für Deutschland/ドイツのための選択肢)の思想は他党からも危険視されており、今回のRemigrationという言葉は、過激派右翼の文脈では強制送還や強制集団追放といった過激な意味合いを含ませているにも拘わらず、婉曲的で曖昧な表現をすることで、反移民感情を扇動する偽装的な言葉だとして批判を受けています。

また、増加する移民への不安は高まりつつも、ドイツが右傾化していくことに対する不安を併せ持つ国民も多く、2024年1月にも各地で大規模なデモンストレーションが行われ、AfDへの批判を唱える人々が10万人以上も集結したとのことです。

 

 

第二位に選ばれたのはSozialklimbim

 

2023年粗悪語の第二位に選ばれたSozialklimbimは、sozial(社会)Klimbim(余計なもの、がらくた)というふたつの単語の合成語です。

この言葉は子供基礎保障における政治的議論において発生した揶揄的な言葉です。

子供基礎保障とはいわゆる児童手当のことで、2023年にその額が引き上げられました。

この社会保障を無意味なものと見なす政党から投げかけられた言葉ですが、貧困に苦しむ子供たちへの侮蔑的な言葉でもあり、中傷的で非人道的な言葉と見なされ今回の粗悪語に選ばれました。

 

第三位はHeizungs-Stasi

 

Heizungは暖房Stasiはドイツ民主共和国(東ドイツ)の秘密警察・諜報機関を総括する国家保安省の通称です。

穏やかではないニュアンスを帯びるこの造語は、環境保護政策のひとつである建築物エネルギー法Gebäudeenergiegesetz略してGEG、暖房法案ともいわれる)の改正法案を巡って揶揄された言葉です。

 

 

気候変動政策に反対するポピュリストたちのプロパガンダであり、独裁的なイメージを植え付けている上に、シュタージの犠牲者たちまでも侮蔑している言葉であると審査員は述べています。

 

 

粗悪語大賞によって目指されているのは、聞こえの良さそうな言葉に置き換えられて、過激で非人道的な事柄が正当化されてしまうことを防いだり、侮蔑的、差別的な表現の不適切な言語を流布させぬようにといった意図もあるようです。

 


参考HP

 

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