会長のドイツ出張ブログ ②
Bairisch oder Bayrisch?
あ、それともBayerisch?

 Griasgood !

トランスユーロ会長の加藤です。

 

前回に続いてミュンヘンのMarienplatz周辺で体験したお話です。

私がドイツに来てどうしても訪れたかったお店、それは本屋さんです。

ということで、滞在中にMarienplatzの大型書店Hugendubelに立ち寄りました。

お目当ては特許関連の本? いいえ、Bayrischの方言辞典です!

 

Oachkatzlschwoaf

 

ミュンヘンの特許事務所TBKでの私のセミナーにご参加した方や、セミナー記事をお読みになった方ならご存知かと思いますが、本セミナーに私は『Bayrisch für Anfänger ~ Oachkatzlschwoaf』(初心者のためのバイエルン語~Oachkatzlschwoaf)と書かれた派手な紫色のTシャツを着て臨みました。

 

「Oachkatzlschwoaf」とは、有名なバイエルン語の単語のひとつです。

標準ドイツ語で云えば「Eichkätzchenschweif」ですかね。つまり「リスの尻尾」という意味です。生粋のバイエルン人であれば問題なく発音できますが、バイエルン人でない人だとなかなか上手く発音できません。なので、この言葉は一種のシボレス(shibboleth;文化的指標)としても使われるそうです。つまり、バイエルン人を見分けるための指標として使われるわけですね。

 

ダブルMCで臨んだセミナーの相方(左)と、リスの尻尾に「Oachkatzlschwoaf 」と書かれた「Bayrisch für Anfänger」Tシャツを着た筆者

 

Bairisch oder Bayrisch ? それともBayerisch ?

 

私のドイツ語はかなりメチャメチャなのですが、とりわけ「R」の発音にいたっては、北ドイツで話されているような美しい「喉彦(のど○○○)のR」(口蓋垂のR=Zäpchen-R)を出すのが苦手で、どうしても「舌先のR」(Zungen-R)になってしまうか、あるいはスイスドイツ語(Schwyzertütsch)風に喉の奥からしぼり出すような音(kehlige Laute)になってしまいます。特に「durch」のように「r」の後に「ch」が続くような場合は悲惨で、それこそ痰を吐くような恐ろしい発音になります。

 

が、ミュンヘンに来てすぐに気づいたのは、親愛なるミュンヘンの人々は皆さん見事に「舌先のR」を駆使してしゃべっているではありませんか! トランスユーロ社内ではとても美しい「喉彦のR」を駆使する人達に囲まれて肩身の狭い思いをしてきましたが、なんと開放的なミュンヘンのRでしょう!

 

そんな感動的背景もあってバイエルン方言に大変親近感を抱いた私は、Hugendubel書店でバイエルン方言の本を購入しようと思いましたが、ここは丸善や紀伊国屋書店を思わせる大型書店なのでなかなかお目当ての本が見つかりません。そこでフロアにいる何でも知っていそうな店員さんを捕まえてバイエルン方言の辞書はないかと尋ねると、待ってました!とばかり店内を軽やかに巡りながら次々と関連する本を出してくれました。

 

Hugendubel書店で店員さんが出してくれたBairisch関連のLexikon類

 

上の写真にあるように、バイエルン語関連の辞書だけでこれくらいあります!

ここで新たな疑問が・・・そもそも「バイエルン語」の表記は「Bairisch」、「Bayrisch」?、それとも「Bayerisch」でしょうか? 一体どれが正しい表記なのでしょうか?

 

BairischBayrisch

 

まず「Bairisch」と「Bayrisch」ですが、私が購入した『Langenscheidt Bairisch für ANFÄNGER』(写真;左から2冊目)の冒頭にある説明によると、現在のオーバーバイエルン、ニーダーバイエルン、オーバープファルツに当たる南部のバイエルン地方は、歴史的見て狭義に「アルトバイエルン」(ソーセージではありません!)と呼ばれているそうなんですが、この「アルトバイエルン」は現在では「Altbayern」と表記されますが、昔は「Altbaiern」と「i」を使って表記されていたそうです。

 

しかし、初代バイエル王となったマックス・ヨーゼフ(Max I. Joseph)、そしてその長男ルードヴィッヒ1世(Ludwig I.)の時代に「Altbayern」と「y」を使った表記に変更されたそうです。何故かというと、ルードヴィッヒ1世が古代ギリシア文化の熱烈なファンだったそうで、どうやらギリシア語を意識して「Baiern」をギリシア語風の「Bayern」の表記に変えたようです。

 

ギリシア語でラテン文字の「Y」は「イ」の音価(文字がどのような音声を表すかを示す語)を表すので、ギリシア語風に表記すると「Bayern」となるそうです。こうして、「バイエルン」という地名については「y」を用いた表記が定着しました。

 

現在の連邦州バイエルンも、もちろん「y」を用いた「Bayern」と表記します。また、バイエルンならびにバイエルンに関係するもの、またはバイエルンに由来するものを表記する場合にも「bayerisch」または「bayrisch」の「y」表記を使います。つまり「bayerisch」は、地理的および政治的な表記と云えます。(例:「FC BAYERN MÜNCHEN」、「Bayerische Staatsoper」、「Bayrisches Weißbier」など)

 

一方、バイエルン地方で話されている言語(方言)を表す場合に限っては、現在でも「Bairisch」と「i」を用いる表記が相変わらず使われているようです。なので、ミュンヘンのHugendubel書店で見つけたバイエルン語の辞書のタイトルは、上の写真からお判りのように、すべて「Bairisch」と表記されているわけです。つまり、純粋に言語を表す場合に限り、現在でも「i」を用いた「Bairisch」と表記されるようです。

 

ということは、現在では、政治的/地理的な表記か、または言語的な表記かに応じて、「bayerisch」と「bairisch」を使い分けなくてはなりません。これはけっこう大変ですね。でもこれについては、バイエルンに住んでいる限り、実はあまり心配する必要はないようです。

 

Allzu viel Kopf musst du dir darum allerdings nicht machen !

 

どうしてかというと、ちょっとややこしいですが、実はバイエルン語で「バイエルン語」を何と云うかというと、「Bairisch」ではなく「Boarisch」と表現するからなんです。ですので、バイエルンに住んでバイエルン語を駆使している地元民の皆さんは全然困らないわけですね。

 

Caudia Halbedl、Florian Kiast著の「Langenscheidt Bairisch für ANFÄNGER」 PONS GmbH

 

BayrischBayerisch

 

最後に、「Bayern」の形容詞に「bayrisch」と「bayerisch」の2通りの表記がある問題に触れておきましょう。

 

「bayerisch」と「e」が入るバージョンは、もっぱら標準語や固有名詞において使用されます。たとえば「die Bayerische Staatsoper」や「der Bayerische Rundfunk」などです。それから、地域や地域に関連する物の記述についても、やはり「e」が入るバージョンが使用されます。たとえば「Bayerischer Wald」とか「Bayerischer Rheinkreis」です。

 

他方、日常語では、しばしば「e」なしのバージョンが使われていて、これが「bayrisch」です。この「e」なしの表記は特に飲食などの料理の分野で見られるようです。たとえば「Bayrisches Weißbier」とか「Bayrische Brezn」です。これはおそらく、話し言葉において「e」は、しばしば発音されないか、あるいはあまりはっきりとは発音されないからであると思われます。言語学では、このような現象を「flüchtiges „e“」(弱いあいまいなe)と呼ぶそうで、たとえば「Vater」の「-e-」などがこれに相当します。

 

というわけで、両者を考察してみましたが、結論から申し上げると、「bayerisch」と「bayrisch」に関しては、どちらが正しいのかの明確な答えはないということになりそうです。前述した固有名詞や地域名以外の表記については、コンテクスト次第といったところでしょうか。意味上の違いはありません。

 

Heißt es Bairisch, Bayrisch oder Bayerisch ?

 

今回は、「Bairisch」、「Bayrisch」、「Bayerisch」の表記の謎についてお話しをしましたが、いかがでしたでしょうか? これまで気にしたことはありましたか? もしミュンヘンに行く機会があれば、ぜひどの表記がどんなときに使われているのかチェックしてみてください。

 

Hugendubel書店には、辞書以外にも様々な本が置いてあり、一日いても飽きないほどです。「Manga」コーナーにはたくさんの日本のマンガが陳列されていました。そういえば、ミュンヘンで私が滞在しているホテルの働き者のマネージャーも日本のアニメやマンガが大好きと言っていました。なんでも特に『ATTACK on TITAN』(進撃の巨人)が大好きで「自分も毎日TITANと戦っているのだ!」そうです。

 

皆、毎日仕事や勉強でTITAN(巨人)と戦っているようですね。

私もずっと、ドイツ語というTITANと戦っていきたいと思います。

Opfert Eure Herzen !

 

 

 Hugendubel書店のマンガコーナー

 

日本のマンガだらけ

心臓を捧げよ! Opfert Eure Herzen !

遂に巨人化した加藤

 


参考ホームページ

■Babbel MAGAZIN Bairisch-ein Kultdialekt…oder ganz viele Kultdialekte ?:Bairisch – ein Kultdialekt … oder ganz viele Kultdialekte? (babbel.com)

 

■GfdS Der Unterschied zwischen bayrisch und bayerisch:Der Unterschied zwischen bayrisch und bayerisch | GfdS

 

Comments

(2 Comments)

  • Ken

    違いを知らずに今までは勝手にBayrischと思い込んでいてそればっかりを使っていました。当時の王の好みでiがyに変わってそれが今のBayernになっているのが驚きでした。今日もTITANに負けないでください。

    • Rockin' KAT-TON

      Kenさん、コメントありがとうございます。実際にBayernではBairischではなくBoarischと言うそうです。きっとドイツ南部、オーストリアなど地域によっても異なると思いますので何か面白い情報をお持ちであれば是非ご提供くださいね!
      Opfert Eure Herzen !

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