スイスの祝日事情
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日本では、昨年は土曜日と日曜日に当たらない祝日が計15日だったのに対し、2023年は13日であることを残念がっている人も少なくありませんでした。
1年と言う長いスパンで見ると365日中の1日や2日は大したことないように感じますが、世界的に働き者と認識されている日本人にとっては休みが1日増えるか減るかは意外と重要みたいです。
とはいえ、そもそも日本が他の国と比べて祝日が多いことをご存知でしたか?
しかも、日曜日と重なった祝日を補う振替休日という制度まで存在し、一部の国や地域からしてみれば日本は祝日に関してとても恵まれている国と言えます。
もちろん、比較対象がなければ自分が置かれている状況を把握するのはなかなか難しいですし、一生関わることのない他国の祝日事情を知る機会も殆どないことから、自身が如何に得しているかを自覚できないのは無理もありません。
そこで、今回は日本の皆様が祝日に関して意外と幸運であることを再認識してもらうためにスイスの祝日事情についてご紹介いたします。
祝日の数が地域によって違う
まず、スイスの祝日を語る上で最初に申し上げておかなくてはならないのが、その日数が全国共通ではなく、場所によって異なることです。これを聞いて「本当に?それって不公平じゃないの?」と、思われる方もいるでしょうが、そもそも日本とは考え方やルールが大きく違っています。日本では労働基準法により週に1日または4週間を通じて4日の休日を与える義務があり、これを「法定休日」といいます(例えば週休2日制で土日を休日にしている場合に土曜日を法定休日に設定するなど)。それ以外に企業から与えられる休日や国民の祝日は「法定外休日」(所定休日)といい、国民の祝日については毎年内閣府よりその年の「国民の祝日」(計16日)が発表されます。
日本のような全国を統括・管理する中央集権国家においてはこのような「国民の祝日」を定めて全国に適用することができますが、スイスなどのような連邦制国家では自治権を有する各州がそれぞれ独自の法律により祝日を定めているケースが多いので、各州ごとに祝日の日数に違いが出てくるのも当然なのです。
とはいえ、多くの連邦では連邦法によって定められている全国一律の祝日と、各州がその州法において指定している個別の祝日があるので、同じ国の中で内容がさほど大きく異なる訳ではありません。
例えば、連邦共和国であるドイツでは統一記念日以外の全ての祝日は各州が制定していますが、そのうち計9つの祝日が全ての州で共通の祝日となっており、それぞれの州ならびに自治体がさらに個別に1~5日を祝日に指定していることから、地域によって合計日数が最少10日から最多14日とバラついているのです。
スイスに関しても似たような状況が確認できますが、祝日の日数についてはドイツ以上に大きな地域間の格差が見受けられます。
というのも、スイスの連邦法で定められている全州共通の祝日は8月1日の建国記念日のみで、それ以外の全ての祝日は州が個々に決めているのです。
そして、その数は決して一律ではなく、少ない所では6日で、最も多い州では14日もあります。
しかも、州法によって祝日に指定されているにも拘わらず、それらが州内の一部で適用されていないケースや市町村レベルで独自の休日を追加しているというパターンも珍しくありません。
そのため、スイスでは祝日がたったの5日(フリブール州湖郡)しかない場所と、なんと16日(ティチーノ州ベッリンツォーナ市)もある自治体が存在し、同じ国に属する地域でありながらもその日数に大差があるのが現状です。
期日が固定されていない祝日が多い
続いて、スイスの祝日に関して知っておく必要があるのは内容によって時期が変動することです。これはどういうことかと言うと、祝日には月日が固定されているものと、期日がピンポイントで固定されていないものがあります。
日本では春分の日や秋分の日などが後者の例で、該当日が毎年微妙にズレることがありますよね?
大半の場合、変動可能な幅は数日以内に留まっているため、例えばそれらがある年に月頭に行われ、別の年に月末に移動することは基本的にありません。
ただし、スイスを始め、キリスト教の影響を強く受けている国々には該当日が数日どころか月を跨いで数週間も異なる場合がある一連の祝日が存在します。
その代表例と言えるのがイエス・キリストの復活を祝う「イースター」です。
イースターの期日は旧暦に基づいて春分以降の初満月の翌日曜日とされており、西洋における春分はローマ皇帝コンスタンティヌス1世(Constantinus I.)によって3月21日と定められたことから、3月22日から4月25日のいずれかの日付に当たります。
したがって、イースターは理論上最大1カ月以上もズレることが可能ですが、1年間で月の周期(朔望月)がさほど大きく乱れることはないので、実際には前年に対して2~3週間早まったり遅れたりするのが普通です。
また、イースターは宗教関連行事の中でひとつの起点のようなものでもあるので、その期日に合わせて様々な祝日の日付も同様に前後します。
例えば、イースターに応じてその直前の金曜日が「聖金曜日」、翌日が「イースターマンデー」に決まる他、「昇天祭」(イースターの39日後)、「聖霊降臨祭」(イースターの50日後)、そして「聖体祭」(イースターの60日後)もそれぞれ変動し、毎年異なる時期に訪れるのが恒例です。
そのため、スイスを含むキリスト教徒が在住する国や地域では固定されていない祝日の割合が比較的高く、それらの日付が早いか遅いかで休日の過ごし方にも違いが見られます。
特に4連休(一部の地域では3連休)となるイースターウィークはまだ肌寒さが残る季節か春爛漫の時期かで、旅行先をスキーリゾートからアウトドアを楽しめるキャンプ場に変える人も少なくありません。
祝日と同等な祭日がある
スイスの祝日制度と関連して忘れてはいけないもうひとつ重要なものには祭日があります。
通常、祭日は祝日と違って法律で定められた休日のようには扱われないローカルな行事みたいなもので、特定のエリアにおける交通規制を除くと関係者や参加者以外の人にとっては他と何ら変わらない日であることが多いです。
ところが、スイスには行政機関を始め、大多数の民間企業も普段通りの営業を行わず、事実上休日と同じ状態を引き起こす様々なお祭りが存在します。
そのようなお祭りの中で代表的なものが、少し前の記事でご紹介したカーニバルこと「ファスナハト」です。
ファスナハトは春の風物詩としてスイス各地で開催されるお祭りで、単なる伝統行事として位置づけられているものの、特に中央スイスとバーゼルでは開催当日が休日と同等に扱われています。
これは大規模な道路の封鎖やブラスバンドの騒音が仕事に支障をきたすのと、各企業で社員の多くが何らかの形でファスナハトに参加して出社しないことを踏まえて休業にすると判断した結果によるものです。
日本では企業が休業を余儀なくされるほど重大なイベントがないことから、こういう状況を不思議に感じる方もいるでしょうが、同様な理由で休みを取る会社が続出する京都の祇園祭をイメージしていただければ、その感覚が何となく分かると思います。
また、スイスには休日となる祭日の中に半日休業を設けるという少し変わったものもあることに注意しなくてはなりません。
例えば、チューリッヒ市のセクセロイテン(と称される春祭りは毎年4月の第2または第3月曜日に開催され、前日の子供たちによるパレードから始まる様々なイベントが2日間に亘って行われます。
そして、2日目の午前は市役所も含め、お店や企業が通常通り営業するにも拘らず、午後からは全員が一斉に休業するのが普通です。同じチューリッヒ市の民俗祭である「クナーベンシーッセン」(Knabenschiessen)も午後のみが事実上休日扱いとされるお祭りとして知られています。
クナーベンシーッセンは17世紀に始まった青少年の射撃大会で、毎年9月の第2土・日・月曜日の3日間に開催されます。
大会自体は月曜日の午前に行われる王者決定戦をもって終了しますが、同日の13時以降は市内全域およびその近郊で商業施設までもが休むという事態が発生するのです。
これは地元住民からすれば毎年恒例の出来事で珍しくもない一方、特に国外からの観光客はショッピング中にお店が急遽閉店したり、いつも通り開いていた郵便局や銀行がいきなり閉まったりする状況に戸惑うことも少なくありません。
このように、スイスの祝日は日数が全国一律でなく、日付が大きく変動し、従来祝日と区別される祭日が同等に扱われる場合もあるのが一般的ですので、日本人から見てちょっと複雑で馴染みにくい一面を持っているのではないでしょうか?
逆に変化に富んでいて毎年違った顔を見せている点が面白いと感じる方もいるかもしれませんが、結局のところスイスと日本を比較してどちらがいいかと問われたら、大抵の人はやはり簡単かつ平等で数も多い日本の祝日制度を高く評価すると思います。
そういう意味で、今回の記事を通して皆様が少しでも自身が置かれている環境が決して悪くなく、他と比べたらむしろ恵まれている方だと考えてもらえたのであれば幸いです。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
振替 | ersatzweise
(エアサッツヴァイセ) |
ersatzwiis
(エルサッツヴィース) |
適用する | anwenden
(アンヴェンデン) |
aawende
(アーヴェンデ) |
イースター | Ostern
(オースターン) |
Ooschtere
(オーシュテレ) |
春 | Frühling
(フリューリング) |
Früelig
(フリュエリク) |
起点 | Ausgangspunkt
(アウスガングスプンクト) |
Uusgangspunkt
(ウースガングスプンクト) |
聖金曜日 | Karfreitag
(カーフライターク) |
Karfriitig
(カルフリーティク) |
昇天祭 | Christi Himmelfahrt
(クリスティ・ヒンメルファート) |
Uuffert
(ウーッフェルト) |
聖霊降臨祭 | Pfingsten
(プフィングステン) |
Pfingschte
(プフィングシュテ) |
聖体祭 | Fronleichnam
(フロンライヒナム) |
Fronliichnam
(フロンリーフナム) |
封鎖 | Sperre
(シュペレ) |
Schperri
(シュペリ) |
参考ホームページ
スイス連邦法務省:「スイスの法定休日ならびに法定休日と同等に扱われる祭日」の関連資料:https://www.bj.admin.ch/bj/de/home/publiservice/zivilprozessrecht.html
ニュースポータル「ワトソン」:スイスの祝日~この場所は休日が最も多い~:https://www.watson.ch/schweiz/leben/746301341-hier-musst-du-hinziehen-um-so-viel-freie-tage-wie-moeglich-abzustauben
セクセロイテンオフィシャルサイト:https://www.sechselaeuten.ch
クナーベンシーッセンオフィシャルサイト:https://www.knabenschiessen.ch
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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