スイスドイツ語講座その11:体の部位

 

皆様は外国語を学ぶ際に体の部位を覚えることをどれほど重視しますか?

これは私の勝手な推測ですが、外国語をしっかり学習するにあたっては体のパーツも避けられない一方、観光目的などのために簡単な会話のみを身に付ける時は意外と不要に感じている人も少なくはないのではないでしょうか?

確かに、旅行では「〇〇はどこですか?」などのお決まりフレーズを集中的に習得しておけば、大したトラブルに遭うことはありません。

しかし、思いも寄らない事態でいきなり救急車を呼んだり、病院を訪れたりすることになったのに、「頭を打ちました」も言えないと何かと困ります。

また、異常がなくても、「顔色がよくない」といった体の部位が含まれる簡単な日常会話も成立しませんし、衛生用品の購入に際してどの商品がどの部位のためのものかの区別すら付きません。

したがって、今回のスイスドイツ語講座では案外甘く見られているけど、知っておくと様々な場面で非常に役に立つ体の部位の表現についてのお話をします。

 

主な部位の言い方

 

スイスドイツ語で体の部位は基本的にドイツ語と一緒で、異なるのは発音ぐらいです。

また、過去の講座でご紹介したように、スイスドイツ語にはフランス語や英語など他の言語から流用した単語も少なくありませんが、体の部位に関してはそういったケースは見受けられませんので、珍しく特筆すべき例外はございません。

下記に主要部位をリストアップさせていただきましたので、まずはドイツ語とスイスドイツ語を比較しながらそれぞれの名称をご確認ください。

 

  ドイツ語 スイスドイツ語
Kopf(コップフ) Chopf(ホップフ)
Gesicht(ゲスィヒト) Gsicht(クスィフト)
Hals(ハルス) Hals(ハルス)
Schulter(シュルター) Schultere(シュルテレ)
Bauch(バウフ) Buuch(ブーフ)
背中 Rücken(リュッケン) Rugge(ルッゲ)
Ellbogen(エルボーゲン) Ellboge(エルボゲ)
Hand(ハント) Hand(ハント)
Bein(バイン) Bei(バイ)
Knie(クニー) Chnü(フニュー)
Fuß(フーッス) Fuess(フエス)
目・眼 Auge(アウゲ) Aug(アウク)
Nase(ナーセ) Nase(ナセ)
Mund(ムント) Muul(ムール)
Ohr(オアー) Ohr(オール)

 

ご覧の通り、スイスドイツ語とドイツ語で言い方が微妙にズレている部位もあれば、発音が完全に一致しているものもあります。

膝や口など一部についてはまるで別の言葉であるかのような印象を受けますが、上記のような対訳表で見比べると両言語の表現の語源が一緒で、そこまでの大差はないことが分かります。

これは今回記載していない部位、そして臓器やその他の部分に関しても同様に当てはまりますので、ドイツ語とスイスドイツ語の間に特別な注意が必要な違いはないと言えます。

 

会話における部位の使い方

 

体の部位の基本を学んだ次はその使い方についても見ていきましょう。

体の部位を単独で使用することは非常に稀で、大概は「〇痛」「〇科」など別の語と組み合わせるのが一般的です。

ただし、ドイツ語およびスイスドイツ語では日本語のように音読みと訓読みがないことから、「頭が痛い」と「頭痛」で部位の言い方が「あたま」から「ず」に変化することはございません。

したがって、体の部位を一度覚えてしまえば、それらを変えることなくそのまま使ってあらゆる組み合わせが可能です。

例えば、「痛み」は標準ドイツ語でもスイスドイツ語でも「ヴェー」(Weh)であるため、「頭痛」はドイツ語で「コップフヴェー」(Kopfweh)で、スイスドイツ語で「ホップフヴェー」(Chopfwehと言います。

同様に、「偏平足」「扁平」を指す「プラット」(Platt)「足」を追加すればいいだけなので、当然ながらドイツ語で「プラットフーッス」(Plattfuß)、そしてスイスドイツ語で「プラットフエス」(Plattfuess)となります。

 

 

また、日本語では特に化粧品やアクセサリーで「スキン」、「アイ」、「イヤ」、「ネック」といった外来語が多々登場しますよね?

ドイツ語圏でもビューティー関連で英語が増えつつあるものの、大半の分野に関しては通常の体の部位の言い方を使用したドイツ語の名称が採用されています。

つまり、日本で良く見聞きする「フェイスケア」は言い換えれば「顔」の「手入れ」に過ぎないことから、ドイツ語では「ゲスィヒツプフレーゲ」(Gesichtspflege)と呼ばれており、スイスドイツ語でも「クスィフツプフレーク」(Gsichtspfläg)です。

おしゃれグッズであるネックレスも日本語は英語の名前をそのまま使用しているのに対し、ドイツでは「ハルスケッテ」(Halskette)スイスでは「ハルスヘッティ」(Halschetti)の呼び方が一般的です。

このように、普段はあまり気にしていなくても、体の部位は日常生活の様々な場面で必要となり、外国語を学ぶ際にも意外と無視できないことをご理解いただけたでしょうか?

 

教科書に載らない体の部位を表す単語がある

 

体の部位の基本とそれらを学習する必要性について述べた直後にこのようなことを申し上げるのは少々残酷ですが、皆様もご存知の通り、理論と実践は必ずしも一致しているとは限りません。

私も日本で生活する上でそれを何度か経験し、しっかり学んだ筈の日本語を理解できずに戸惑いました。

例えば、体の部位との関連で子連れの母親が「あんよ」という言葉を使って、それが何を意味しているのか分からなかったのです。

今ならそれが「足」を指す言葉であるのを知っていますが、当時は教科書に記載されていない表現が日常で当たり前のように流通していることに疑問を抱きました。

ただ、よくよく考えてみれば、それは日本語のみならず、他の言語にも存在する現象で、さほど驚くことではありません。というのも、スイスドイツ語でも学校では教えてくれないけど日常で一般的に使用されている表現がたくさんあります。

体の部位で言えば、「頭」は上記でご説明した「ホップフ」(Chopf)以外にも「グリント」(Grind)と呼ぶことが多いです。

 

 

「グリント」は元々「瘡蓋」を意味し、過去に皮膚病によって頭に発生する瘡蓋を指していたことから、ドイツ語圏全域において軽蔑的な意味で「頭」を表す語として用いられていました。

そのネガティブな印象から殆どの地域ではその使用を控えるようになったのですが、スイスでは何故か今でも頭の類義語として残っており、「頭痛」でご紹介した「ホップフヴェー」を「グリントヴェー」(Grindweh)とも称するなど、日常会話でその単語を頻繁に耳にします。

しかも、大半のスイス人はその言葉を侮辱的な意味で用いておらず、自分自身に対しても言うぐらいですから、単に「ホップフ」の同義語として使っています。

 

スイスでしか使われない「フュドリ」

 

教科書に載っていない体の部位を表す言葉には「グリント」とは異なり、そもそも標準ドイツ語に元々存在せず、スイスのみで使われてきたいわゆる方言もあります。

その代表例であるのが「フュドリ」(Füdliです。この単語は「尻」を意味し、標準ドイツ語では「ポー」(Po)、「ゲセース」(Gesäß)、「ヒンターン」(Hintern)など様々な呼び方がありますが、スイスドイツ語では何故かこの似ても似つかない「フュドリ」が唯一で最も一般的な表現として定着しています。

また、フュドリは日本語でいう「ケツ」と違って決して汚い言葉や雑言ではなく、むしろ少し可愛らしさを込めた「お尻」に近いニュアンスを持っていますので、老若男女問わず誰しもが当たり前のように使用する用語です。

さらに、日本語でも「尻拭い」という言葉があるように、スイスドイツ語のフュドリもまた体の部位のみならず、比喩的な意味でそれ以外のものにも応用されている特徴が見受けられます。

例えば、「全裸」は標準ドイツ語で「ナクト」(nackt)と言いますが、スイス人はそれを「お尻まで素っ裸」に掛けてフュドリブルット」(füdlibluttと表現しています。

さらに、ドイツでは心が狭い人や俗物を普段シュピーッサー」(Spießerと呼ぶ一方、スイスに関してはそのような人物がなんと「お尻市民」に因んで「フュドリビュルゲル」(Füdlibürgerと称されているのです。

したがって、体の部位を表す単語の中には本来の使用範囲を超えて、全く別の内容に用いられるケースも少なくありませんので、言語を学ぶ上ではやはり欠かせないと言えます。

 

 

今回は体の部位をご紹介しましたが、参考になりましたでしょうか?

ご説明した通り、体の部位は様々な場面やシチュエーションで登場することがあり、せめて主要部位だけでも知っておかないと困ってしまうことも少なくありません。

また、日本人は特にお互いの外見を褒めることが多く、体のパーツを会話に取り入れているイメージが強いので、外国語を話す際もそれらを使用する機会は多いと思います。

したがって、今まで語学を勉強する時にはそれらをあまり重視してこなかった方は是非体の部位も積極的に覚えて、現地でのコミュニケーション、お友達作り、もしくは素敵な相手と知り合うきっかけにしてみてはどうですか?

では

Bis zum nöchschte mal!

Birewegge


今回の対訳用語集

日本語 標準ドイツ語 スイスドイツ語
リストアップ Auflistung

(アウフリストゥング)

Uuflischtig

(ウーフリシュティク)

頭痛 Kopfweh

(コップフヴェー)

Chopfweh/Grindweh

(ホップフヴェー/グリントヴェー)

偏平足 Plattfuß

(プラットフーッス)

Plattfuess

(プラットフエス)

フェイスケア Gesichtspflege

(ゲスィヒツプフレーゲ)

Gsichtspfläg

(クスィフツプフレーク)

ネックレス Halskette

(ハルスケッテ)

Halschetti

(ハルスヘッティ)

流通する kursieren

(クルスィーレン)

kursiäre

(クルスィエレ)

教科書 Lehrbuch

(レアーブーフ)

Lehrbuech

(レールブエフ)

お尻 Po/Gesäß/Hintern

(ポー/ゲセース/ヒンターン)

Füdli

(フュドリ)

全裸 nackt

(ナクト)

füdliblutt

(フュドリブルット)

俗物 Spießer

(シュピーッサー)

Füdlibürger

(フュドリビュルゲル)

 

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