サッカーW杯2022 ドイツ事情
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11月20日(日)からカタールで始まったサッカーワールドカップ。サッカー大国であるドイツに勝った日本ではおおいに盛り上がりましたが、ドイツにとっては予想外の結果となり、勝負は水物と実感させられます。しかし、今回のワールドカップは開幕前からフィールド外での話題も多く、欧州とりわけドイツでは観戦ボイコットも起こっています。
盛り上がりに欠けるドイツ その背景
実は今大会、ドイツ国内では盛り上がりに欠けているそうですが、理由はいくつかある様子。
従来サッカーW杯は6月、7月に開催されてきましたが、今回は初の中東での開催で、夏季のカタールは非常に高温になるため、11月、12月といった暑さが和らぐ時期が選ばれました。しかしこの時期のドイツは冬の始まり。運が悪ければ氷点下になる季節でもあるため、ビール片手に屋外で観戦を楽しむ状況ではないのが一因。さらにはドイツ国内では、現在エネルギー危機が高まっており、パブリックビューイングなどは節電のために中止にされているのも現状です。
そして一番の原因は、今大会のためのスタジアム建設に従事した外国人労働者への搾取が問題視されると共に、カタールにおける性的マイノリティへの人権侵害に対する抗議が欧州全体に拡がりをみせ、開催前から強い批判の声が上がっていたことによります。
こういった背景から、ドイツ国内のスポーツバー等でも観戦ボイコットという形で抗議運動がなされ、今大会はいつものお祭り騒ぎが見られないとのことです。
スポーツにおける政治的表明
カタールに対する抗議活動は欧州全般で見られており、政治的アクションの一環として、LGBTQの権利や人種差別批判を表明する「ONE LOVE」と書かれた虹色の腕章を欧州7チーム(イングランド、ウェールズ、ベルギー、デンマーク、オランダ、スイス、ドイツ)の主将らが着用予定でした。しかし、大会開催直前にFIFAがこの腕章の着用を禁じたため、抗議はさらに高まりをみせ、ドイツ代表チームは初戦の試合開始直前、集合写真撮影の際に、口をふさぐジェスチャーで人権尊重への主張を示したことが話題となりました。(ドイツサッカー連盟は「これは政治的主張ではなく、人権は根本的に譲れないものなのだ」と表明。)
このようにドイツでは人権侵害へのリアクションは他の欧州諸国より大きく、FIFAの対応への抗議として、ドイツの大手企業グループReweもドイツサッカー連盟とのスポンサー契約を辞退しました。ドイツ代表チームのみならず、メディアや企業、一般市民においても、今大会への政治的態度が明確に表れています。
人権や性差別に関する議論は、殊に異文化間では難しい問題であり、議論を重ねる必要があると思いますが、このようにスポーツ、音楽、芸術といった分野で政治的メッセージを発することのできる自由さは、ヨーロッパ的・ドイツ的だと個人的に感じました。アーティストやスポーツ選手がこのようなメッセージを発信すると、日本ではしばしば批判の対象ともなるため議論そのものが成立することが少ないですが、欧米もといドイツでは、社会的影響力のある人間や団体が主義主張を表明しないこと自体が疑問視されるようです。
フィールド外での事情が多い今回のW杯ですが、サッカーは世界規模で楽しめる貴重なスポーツであることは確か。残る試合の中で感動と興奮を楽しみたいですね!
(2022年11月28日現在)
参考HP
- 「うちの店でカタールはゴメンだ」人権問題に抗議、ヨーロッパでW杯観戦ボイコット拡大 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/sports/soccer/worldcup/20221121-OYT1T50149/
- 氷点下のW杯サッカー、熱気乏しく人権重視しボイコットの動き ドイツ 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022112300426&g=int
- サッカー=独代表が口ふさぐ抗議のポーズ、日本戦前の写真撮影で ロイター
https://jp.reuters.com/article/soccer-worldcup-ger-pose-idJPKBN2SE00P
- “One Love” statt Rewe: DFB tauscht Logo auf Sponsorenwand aus Stern
- HAND VOR DEM MUND: NATIONALSPIELER SETZEN EIN ZEICHEN DFB
- ONE LOVE Wikipedia
https://de.wikipedia.org/wiki/Fu%C3%9Fball-Weltmeisterschaft_2022#One_Love
これまで【日本人からみると不思議なドイツ事情】、【ものづくりの国ドイツ】を担当してまいりました、HHです。京都生まれ。ドイツ・フライブルク大学卒。留学中に得た経験をもとに、独自のアンテナを張って様々な側面からみたドイツをお伝えしていきたいと思います!皆さまのドイツ文化に関する興味・関心、ブログの感想もぜひ聞かせて下さいね。
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