ベアテ・ウーゼ ドイツの性の革命家

フランクフルト空港内のショッピングゾーンに、アダルトグッズショップが入っているのをみて、かなり衝撃を覚えたことがあります。たしかにドイツの街中にも、割とカジュアルにこのような店舗がありますが、空港内にまであるのをみて、ドイツ人の性に関する価値観、倫理観はだいぶ違うのかなと感じました。それもそのはず、ご存じでしたか?世界初のアダルトグッズショップが誕生したのは、実はドイツ。しかも、創業者は元ドイツ軍のパイロットでもあったベアテ・ウーゼという女性です。

 

 

 

ベアテ・ウーゼの波乱万丈なキャリア

 

ドイツで見かけるアダルトグッズショップ、『ベアテ・ウーゼ』は、創業者の名前をそのまま受け継いでおり、かなり興味深い歴史があります。
ベアテ・ウーゼ(1919-2001)は、ドイツ・プロイセンで、農夫の父と、医師の母のもとに生まれました。幼少期からパイロットに憧れ、その夢を着実に叶え、1930年代では初の女性パイロット、そして、映画のスタント・パイロットまで勤め上げました。飛行訓練の教官であったハンス・ユルゲン・ウーゼと第二次世界大戦勃発直後に結婚し、1943年には息子を出産しましたが、同年から、彼女自身もドイツ空軍に、輸送機隊として入隊、そして大尉となり、前線へ飛行機を輸送するという任務も務めたスーパーウーマンでした。1944年に夫は戦死。1945年には、彼女は命からがら、息子と乳母を連れて、ベルリンからフレンスブルクへと負傷兵を乗せた飛行機で脱出しましたが、英国軍により逮捕され、6週間の拘束を経て、ようやく解放されました。そして、フレンスブルクがベアテ・ウーゼの生活の拠点となりました。ここまででも、かなり壮絶な人生ですが、パイロットとして活躍していた彼女がなぜ、アダルトグッズショップを開業することになったのでしょうか。

 

ドイツ国内で影響力の大きい女性であったベアテ・ウーゼ (Beate Uhse (1971)、Rob C. Croes / Anefo、CC BY-SA 3.0 nl)

 

正しい性知識を伝道 そして激しい社会的批判

 

ドイツ空軍のパイロットであったベアテは、第二次世界大戦後、再び空を飛ぶことは許されませんでした。親子二人で生き抜くため、ベアテは闇市で得た物資を、家々に売って歩くことで生計を立てました。この時、多くの家庭で、戦後の貧困に苦しみ、未来がみえない状況の中、望まれない子供たちや、中絶が増えていることを聞き知ったベアテは、自身が医師の母親から学んだ性に関する知識や避妊法を知ってもらうため、パンフレットを制作、そして販売を始めました。当時の社会状況では、人々の避妊への知識が浅く、また、戦場から帰還した男性たちが、生活の基盤がないまま、女性たちを妊娠させてしまっていた背景があったのです。

 

クナウス=オギノ式避妊法を案内したパンフレットは、1947年までに32,000部を売り上げ、その後ベアテは、1962年にフレンスブルクで『結婚生活のための特殊用品店』(Fachgeschäft für Ehehygiene)と称して、世界初のアダルトグッズショップを開店し、避妊具や、夫婦生活のためのグッズを販売しました。

 

1962年開店当時のハンブルクの『ベアテ・ウーゼ』 https://magazin-forum.de/de/node/16924 より

 

性に関するアドバイザーとしての地位を築く一方で、時代はまだ、性に対するタブーの強いキリスト教的倫理観も根強く、彼女の歩む道は茨の道でもありました。保守層や教会からは公序良俗に反すると批判を受け続け、開店直後には警察の捜査も介入し、2000回以上にわたり、様々な起訴を受けました。

しかし、ドイツ語圏の性の解放と正しい避妊法、衛生方法の普及に努めたベアテ・ウーゼは、晩年1989年にはドイツ連邦共和国功労勲章を受章、1999年にはフレンスブルク市からも、名誉市民として認められました。

 

しかし彼女の死後、ベアテ・ウーゼ株式会社は経営状況が悪化し、またインターネットの普及による電子商取引に対応しきれず、残念ながら2017年、2019年と二度にわたり破産申請をし、現在はオランダの会社によって買収されてしまいました。ショップはドイツ国内に20店舗ほど存続しているのみですが、彼女の伝説的なキャリアは、著名なドイツ人女性の中でもひときわ異彩を放ち、今日も語り継がれているようです。

 

 


 

参考HP

  • ベアテ・ウーゼ wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%A2%E3%83%86%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%83%BC%E3%82%BC

  • Beathe Uhse (Unternehmen)

https://de.wikipedia.org/wiki/Beate_Uhse_(Unternehmen)

  • Die Erotik-Pionierin Das Wochenmagazin

https://magazin-forum.de/de/node/16924

  • Gehälter seit geraumer Zeit nicht gezahlt: Beate-Uhse-Gruppe ist wieder insolvent Focus

https://www.focus.de/finanzen/news/unternehmen/online-geschaeft-schon-verkauft-gehaelter-seit-geraumer-zeit-nicht-gezahlt-beate-uhse-gruppe-ist-wieder-insolvent_id_10920078.html#:~:text=Beate%20Uhse%20hat%20nur%20noch,Sexshop%20der%20Welt%20in%20Flensburg.&text=Heute%20betreibt%20das%20Unternehmen%20dem,als%2020%20L%C3%A4den%20in%20Deutschland.

  • 独の草分け的アダルトショップチェーンが破産申請、電子商取引の波に対応できず AFP

https://www.afpbb.com/articles/-/3155646

 

参考文献

  • 森貴史 細川裕史 溝井裕一著『ドイツ奇人街道』関西大学出版部、 2014

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