スイス・アルプスの魅力
目次
本ブログでは今までいろいろなお話をさせていただきましたが、ある特定の話題が抜けていることにお気付きでしょうか?
「ちょっと知りたいスイス」というタイトルでありながらスイスの代名詞とも言える「山」に関するネタをご紹介したことがないのです!皆様を始め、大半の人はスイスをイメージする際にアルプスを思い浮かべると思います。
また、私自身もスイスについて語る際は「腐るほど山がある」や「見飽きてしまうぐらい山しかない」との表現を頻繁に使うにも拘わらず、過去の記事で山に触れることがありませんでした。このままだといつか読者の方からそのことを指摘されるのではないかと密かに危惧していましたので、今回は満を持して「スイス・アルプスの魅力」と題し山岳国家スイスの主役である「山」についての話をしたいと思います。
スイスは4000メートルを超える峰の宝庫
まず、スイスの山の位置付けをさせていただきたいと思いますが、皆様はオーストリア、リヒテンシュタイン、スイス、イタリア、そしてフランスに跨るアルプス山脈(Alpen)がヨーロッパで最も標高が高い山系であることをご存知ですよね?
そして、このヨーロッパアルプスの最高地点として知られているのが、フランス・イタリア国境にある標高4808メートルを誇る、有名なお菓子の名前でお馴染みの「モン・ブラン」(Mont Blanc)なのです。
ただし、これは5000メートル超の高峰が集まるコーカサス山脈(Kaukasus)がヨーロッパではなく、アジアに属するという前提に立っての話ですので注意する必要があります。
また、ヨーロッパで標高が3500メートルを超えるのはアルプス山脈のみで、国際山岳連盟(UIAA)によるとその中で4000メートル以上の高峰は副峰を除いた主峰だけでも計82座存在します1。そのほとんどがアルプス西部に集中しており、しかもその内の過半数を占める48座がなんとスイスに鎮座しています。
ヨーロッパ最高峰の「モン・ブラン」は残念ながらスイスの名峰に含まれないものの、このように峰数で言えばスイスは他の国に大差を付けてトップに君臨しているのです。
さらに、それらの山々を総称して「スイス・アルプス」(Schweizer Alpen)と呼んでいますが、地方によっては特徴が異なるため、山地地形学や地質学などにおいては地域別のより細かい分類が用いられます。しかし、学術的な分類は一般の人には分かりづらい部分もあることから、日常的にはスイスアルペンクラブ(Schweizer Alpen-Club)による州別の分類を使うのが一般的です。したがって、本記事でも当該分類を採用し、その内の代表例を3つご紹介いたします。
スイスで最も高い名峰の数々が連なるヴァレー・アルプス
スイス・アルプスを語る上で最初に挙げるに相応しいのは、やはりヴァレー州(Canton du ValaisまたはKanton Wallis)全域に広がる「ヴァレー・アルプス」(Walliser Alpen)です。
ヴァレー州はその東端から西端に向かって流れるローヌ川(Rhone)の河谷とそこから櫛状に延びているそれぞれの枝谷から構成されているため、アルプスはその地形だけでなく、地域住民の日常生活にも古くから大きな影響を与えてきました。
というのも、冬場に積雪によって道路が閉鎖されたり、山奥の村が大雪で孤立したりするのは現在も決して珍しくないので、大半の市町村では自給自足の生活スタイルが残っています。中でもそのようなアルプス地域としての自然美と郷土色を特に濃く残しているのがスイスナンバーワンリゾート地と言っても過言ではない、あのツェルマット(Zermatt)の町で知られるマッタータール(Mattertal)です。スイス観光をした方なら既にご訪問されてご存知だと思いますが、マッタータールにはあの特徴的な形状で世界的にも有名な標高4478メートルの「マッターホルン」(Matterhorn)を始め、4000メートルを超える名峰がなんと38座も点在します。
しかも、それらにはヨーロッパで2番目に高い山で、スイスの最高峰である標高4634メートルの「デュフールシュピッツェ」(Dufourspitze)を有する「モンテ・ローザ」(Monte Rosa)の他、「ドーム」(Dom)、「リスカム」(Liskamm)、「ヴァイスホルン」(Weisshorn)などヨーロッパで最も高い山のトップ10に入る名峰が8座も含まれているのです。それ故、その全てを一望できるツェルマット率いるヴァレー・アルプスは山岳国家スイスの最大の自慢であると同時に世界中の登山家からもアルプス屈指の名所として愛されています。
世界遺産にも登録されているベルン・アルプス
ベルン州(Kanton Bern)は比較的平坦な地が多い印象がありますが、実は南部に行くほど標高が高くなり、最南端の州境には「ベルン・アルプス」(Berner Alpen)と呼ばれる高山地帯が広がっています。
ベルン・アルプスの大半は氷河化されていますが、西部は主に石灰の山塊で構成されている一方で、東部は結晶岩でできている群山が連なっており、西部と東部では見た目にも地質的にも対照的なのが特徴です。
また、アルプス山脈最長のアレッチ氷河(Aletschgletscher)を中心とする824km2という非常に広範囲な氷河地形は、ユーラシア大陸で最大の規模を誇るだけでなく、その自然美ならびに周辺地域の文化的景観との持続可能な共存も高く評価されていることから、2001年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。
それには皆様も既にご存知の著名三山「アイガー」(Eiger)、「メンヒ」(Mönch)、「ユングフラウ」(Jungfrau)に加え、標高4274メートルでベルン・アルプスの最高峰である「フィンステラールホルン」(Finsteraarhorn)が含まれています。
さらに、グリンデルヴァルト(Grindelwald)やラウターブルンネン(Lauterbrunnen)などスイスにおける定番の観光地としても名高い名所を始め、隣接する計23の市町村もその対象です。そのような理由から、ベルン・アルプス東部の周辺一帯には自然保護に関連する様々な条令が存在し、民家に対しても使用する建築材料から構造まで厳格に規定されているため、他の地方ではほとんど見ることができない徹底した歴史的な町作りによる独特な景勝地が点在することでも有名です。
独自の文化圏を持つグラウビュンデン・アルプス
スイス・アルプスの3つ目の代表例として挙げておきたいのが、スイス最大の州であるグラウビュンデン州(Kanton Graubünden)の全域を埋め尽くしている「グラウビュンデン・アルプス」(Bündner Alpen)です。
この山岳地帯は標高に関して云えば前出のヴァレー・アルプスやベルン・アルプスに劣るものの、スイスの約6分の1に相当する7000km2を超える膨大な面積を誇ることから、1000以上もの峰々と計615の湖という桁違いの大自然に恵まれています。
また、その東部にはユネスコ生物圏保護区に登録されているスイス国立公園(Schweizerischer Nationalpark)があり、動植物相が豊かな地域としても有名です。
しかし、グラウビュンデン・アルプスの最大の特徴は他のどの地方よりも独自性に富んだその文化と言えます。というのも、グラウビュンデン州には150の渓谷が存在し、それぞれを結ぶ道路や鉄道などの交通路が長い間未発達だったため、今でも一昔前の生活習慣が色濃く残る山里が多いのです。
この事実は当該地域でロマンシュ語が公用語のひとつとして使用されている点からも窺えます。グラウビュンデン・アルプスに住む人々は古くからドイツ語圏との関わりを持っていたにも拘わらず、ドイツ語圏の文化に屈することなく自身の伝統的な生活スタイルと共に独自の言語も守ってきたのです。
そして、この郷土色はグラウビュンデン・アルプスで唯一の4000メートル級の峰「ピッツ・ベルニナ」(Piz Bernina)を含むベルニナ群山(Berninagruppe)があることでも知られているエンガディン地方(Engadin)で特に顕著に表れており、正に「秘境」と呼べる数々の農山村が点在します。
スイス・アルプスの魅力についてのお話は以上になりますが、アルプスが単にスイスの観光資源であるだけではなく、スイスのそれぞれの地域住民の暮らしと風習に深く関与していることもご理解いただけましたでしょうか?
現在も残っているヴァレー州の自給自足の生活やグラウビュンデン州のロマンシュ語や古き伝統などはアルプスならではの環境で生まれ、育まれてきたため、アルプス無くして現在のスイスにおける様々な文化の発展は成し得なかったと言えます。
これはスイス人が自然を大切にする心に関しても云えることで、自然との共存から学べることは決して少なくありません。
この点については海と共に生きる日本の皆様も大いに共感できると思いますので、スイスのアルプスを訪れる機会があれば、壮大な大自然を楽しむと同時に島国とは違うインスピレーションを得るきっかけにしてみては如何でしょうか?
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
1出典:国際山岳連盟オフィシャルサイト:https://www.theuiaa.org/mountaineering/mountain-classification/
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
山系 | Gebirgskette
(ゲビルクスケッテ) |
Gebirgschetti
(ゲビルクスヘッティ) |
最高地点 | höchster Punkt
(ヘーヒスター・プンクト) |
höchschti Punkt
(ヘーフシュティ・プンクト) |
前提 | Voraussetzung
(フォラウスセッツング) |
Voruussetzig
(フォルースセッツィク) |
枝谷 | Seitental
(サイテンタール) |
Siitetal
(スィーテタール) |
登山家 | Bergsteiger
(ベルクシュタイガー) |
Bergschtiiger
(ベルクシュティーゲル) |
石灰 | Kalkstein
(カルクシュタイン) |
Chalchschtei
(ハルフシュタイ) |
結晶岩 | Kristallingestein
(クリスタリンゲシュタイン) |
Chrischtallingschtei
(フリシュタリンクシュタイ) |
屈する | sich unterwerfen
(スィヒ・ウンターウェアフェン) |
sich unterwerfe
(スィフ・ウンテルヴェルフェ) |
顕著に | auffallend
(アウフファレント) |
uuffallend
(ウーフファレント) |
観光資源 | Touristenattraktion
(トゥリステンアットラクツィオン) |
Turischteattraktion
(トゥリシュテアットラクツィオン) |
参考ホームページ
国際山岳連盟オフィシャルサイト
スイスアルペンクラブオフィシャルサイト
ツェルマット観光オフィシャルサイト:「4000級の38峰の中心」
世界遺産スイス・アルプス ユングフラウ=アレッチのオフィシャルサイト
https://www.jungfraualetsch.ch/de/
エンガディン=サン・モリッツ観光オフィシャルサイト
ポントレシーナ市観光課オフィシャルサイト
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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