オーストリアの“温暖化との戦い”

 

新型コロナウイルスが発生して以来、私はずっとオーストリアに帰れませんでしたが、ようやくコロナも落ち着き始め、5月に久しぶりに故郷に帰ることができました。

3年振りのウィーンですが、その間に色々な事が変化したと感じました。

帰国してすぐに感じたのは、ウィーンの街中の駐車スペースが少なくなったことです。オーストリアには日本のように決まった駐車場はあまりなく、普通は道路と歩道の間の路側帯などに車を駐車するためのスペースがあります。駐車料金は市が販売しているステッカーを購入してフロントガラスに貼りますが、最近ではアプリでも支払いができるようです。自動車用の駐車スペースが減った代わりに増えたのが、自転車用の駐輪スペースです。自転車も、これまでは決まった置き場所があまりなく、どこにでも駐輪できましたが、最近では市が自転車用パーキングのために路上に金属バーを設置しました。これは、そのせいで自動車用の駐車スペースが少なくなったので、市民にとっては自動車で出掛けるのが面倒になり、もう車は要らないと考える人が増えて、少しでも温室効果ガス排出量が減ることを狙っての取り組みだそうです。私自身も昔は自転車を置く場所が少ないと思っていましたから、これは歓迎すべき変化だと思いました。

 

次に気付いた事は、生活の中でプラスチックの使用量が減ったことです。スーパーマーケットでプラスチック袋を無料提供しないのはもう何年も前から行われていますが、商品のパッケージについてもプラスチックの使用が少なくなりました。例えば、買い物した時に、ヨーグルトやクリームチーズ用のパッケージの透明なプラスチック蓋の使用を中止したメーカーを見つけました。さらに、以前はプラスチックが使用されていた部分が紙に変更されている商品もありました。例えば、ティッシュボックス。取り出し口にあったプラスチックが紙に代えられていました。もちろん全ての商品がそうであるわけではありませんが、少しずつリサイクルされたプラスチックを使用したり、プラスチックパッケージ自体を減らしているメーカーが増えてきました。他には、プラスチック袋の代替品としてバイオプラスチック袋の使用が増えました。バイオプラスチックはバイオマス、つまり木材や植物などを原料とするプラスチックです。バイオプラスチックまたはコンポスト(堆肥化設備)に入られる生分解性プラスチックはリサイクルできないという話も聞きますので、バイオプラスチックが本当に良いのかどうか難しい問題みたいです。いずれにせよ、プラスチック製造を減らせば、海洋汚染が減るとともにCO2の削減にも繋がるので温暖化対策には有効なはずです。

 

最近増えてきたバイオプラスチック袋

 

 

オーストリアでも感じる温暖化の影響

 

温暖化の影響はオーストリアでも感じられます。雪が少なくなってきて、アルプス地方は特に変動が激しいです。この数年間で夏の暑さが厳しくなりました。日本とは違ってオーストリアでは一般家庭にエアコンディショナーがありません。オーストリアの一般家庭に装備されているのは暖房設備だけです。しかし温暖化の影響で今では真夏の季節に入るとエアコンを求める人が多いようで、私の知り合いも、夏になるとエアコンがある職場に行くことを楽しみにしています。将来的にはオーストリアでも自宅にエアコンが必要になるかもしれません。温度上昇は人間の身体にとって負担となりますが、温暖化の影響は自然界にも異常をもたらしています。アルプスの氷河は確実に溶けて後退しています。ザルツカンマーグート地方に位置するダッハシュタイン山塊の雄大な氷河は毎年12メートルくらい短くなっているそうです。見た目が変わるだけではなく、氷河は貴重な飲料水の貯水池でもあるので、氷河の水の蓄えが減少することは飲料水確保の危機を意味するので、とても心配です。

 

ダッハシュタイン山塊の氷河は数十年で完全に消えます

 

 

政府目標は2040年までにカーボンニュートラルを達成

 

オーストリアの政治家は、オーストリアを気候変動対策の点で他国をリードする先駆者であると自認しているようです。確かにオーストリアには石炭火力発電所がなく、発電電力量のほとんどを水力発電が占めています。そしてオーストリアで利用されているエネルギーについては、再生可能エネルギーが2020年に36.5%にまで増えました。ただし、再生可能エネルギーの割合が2019年の33.8%から2020年の36.5%に増加した理由は政府の対策によるものではなくて新型コロナウイルスの影響でした。また、温室効果ガス排出量は1990年からほとんど変化していません。要するに、EU加盟国の中でもオーストリアが先駆者だとは決して言い切れない状況なのです。そこで現在の政府は温暖化対策として、電力供給を2030年までに100%再生可能エネルギーに変更する、2040年までにカーボンニュートラルを達成する、というかなり野心的な目標を掲げています(BMK)。

また、オーストリアはEU加盟国として欧州委員会の規定に対応しないといけません。ちょうど先頃開かれた欧州委員会で2030年までに二酸化炭素を55%削減する目標のための規定についての投票がありましたが、合意には至らず、決定までにはまだ時間がかかります。2030年までの時間は、温暖化との戦いにとって一番重要な期間になると云われています。早急に対応しないと悪夢の未来が待っています。これはよく知られた事実であるにもかかわらず、温暖化対策はどの国でもいまだに不十分であり、対策の遅れを懸念する声は日に日に増しています。温暖化による影響を最も懸念しているのは、将来、この温暖化の影響をもろに被る現在の若者たちでしょう。中学生や高校生や大学生の間では、国際的なフライデー・フォー・フューチャーのような環境運動に参加する人がオーストリアでも増えてきました。

 

オーストリアでの気候ストライキ

 

最近、Lobauという氾濫原(河川が洪水の際に冠水する領域)に「Stadtstraße」(シュタットシュトラーセ)という全長約8.2kmのトンネル道路を建設する計画が持ち上がりましたが、この計画に対して激しい抗議運動が起こりました。ウィーンでは毎年、人口が増え続けているので、ウィーン郊外までの交通を確保するために新しい道路を作ることが計画されました。環境活動家たちは、温暖化対策に関する目標を実現するためには新しい道路を作るより、もっと他に環境に優しい方法を考えるべきだと強く主張しています。それに対して新しい道路が必要だと思っている政治家たちは強引に計画を進めようとしましたが、これを阻止したい環境活動家たちは、去年からこの道路の工事現場を占拠し、冬でもテント泊で寒さを凌ぎながら居座り続けました。今は温暖化対策のために新しい斬新なアイディアが必要とされる時代なのに、相も変わらず昔ながらのやり方を強引に推し進めようとする政治家たちに非難の声が浴びせられることは間違いないでしょう。オーストリアではまだ温暖化の影響が強く感じられないので、一般のオーストリア人は温暖化をそれほど重視していないのかもしれません。でも、今から取り組まないと問題を先延ばしするだけでは将来を不安に陥れるだけです。小さな国オーストリアも、“温暖化との戦い”でもっと頑張らないといけません。

 


参考ホームページ

Bundesministerium für Klimaschutz, Umwelt, Energie, Mobilität, Innovation und Technologie (BMK) (2022) Erneuerbare Energien 202 – Entwicklung in Österreich (https://www.bmk.gv.at/dam/jcr:cb254572-b20f-40b8-a9a1-e0e3d6ae47cd/Erneuerbare_Energie_2020_in_Oesterreich_BMK.pdf)

Die Presse (2022) Protest gegen Wiener Stadtstraße: Baumbesetzung aufgelöst

https://www.diepresse.com/6101521/protest-gegen-wiener-stadtstrasse-baumbesetzung-aufgeloest

Klimavolksbegehren (2022) (https://klimavolksbegehren.at)

oesterreich.gv.at (2022) Der Klimawandel und seine Folgen (https://www.oesterreich.gv.at/themen/bauen_wohnen_und_umwelt/klimaschutz/Seite.1000200.html#Oesterreich)

oesterreich.gv.at (2022) Klimaschutzstrategien und Maßnahmen gegen den Klimawandel (https://www.oesterreich.gv.at/themen/bauen_wohnen_und_umwelt/klimaschutz/Seite.1000200.html#Oesterreich)

Süddeutsche Zeitung (2022) Das plant Europa beim Klimaschutz (https://www.sueddeutsche.de/politik/eu-parlament-green-deal-fit-for-55-cbam-ets-emissionshandel-1.5598895?reduced=true)

 

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