バイロイト音楽祭
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ドイツを代表する作曲家のひとりであるリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)。数多く存在するドイツ出身の作曲家の中でも一際その存在が独特であるのは、作品にみられる思想、人々を恍惚させ陶酔感へと導くような音楽性、そしてその虜になる熱狂的なファンである“ワグネリアン”の存在などが理由かもしれません。ワーグナー自身による構想で創設された劇場で行われるバイロイト音楽祭は、今日にも脈々と引き継がれ、ドイツ文化のひとつの柱となっています。
ワーグナーの魅力
ワグネリアンといえば、熱狂的ワーグナーファンを指しますが、19世紀を生き抜いたワーグナーは同時代の権力者、哲学者、詩人などの著名人に大きな影響を与えただけでなく、後世への影響力も多大です。作曲家としてのみならず指揮者、思想家としても活躍し、楽劇(Musikdrama)という新しいオペラの形式も生み出し、総合芸術としてのオペラ文化の刷新に大きく貢献しました。人々が熱狂する理由のひとつは、彼の歌劇作品は中低音域に重点がおかれ、壮大で重厚な音のため、その音の波に引き込まれる感覚が一種の陶酔感を呼び起こすからだ‥ともいわれています。また、ワーグナーの多くの作品は、古代ギリシア悲劇やゲルマン神話、北欧神話から着想を得ており、またロマン主義的時代背景も相まって、その思想は『ドイツ的精神』といった民族主義を鼓舞する側面があり、後世のナチスドイツへも影響しました。
後方:バイロイト祝祭劇場(Richard-Wagner-Festspielhaus)
ワーグナーの祝祭劇場
バイロイト音楽祭(Bayreuther Festspiele)は、1876年にワーグナー自身によって構想、創設された劇場で行われる音楽祭で、毎年7月から8月にかけて、バイエルン州バイロイトにおいて開催されています。上演されるのはワーグナーの楽劇のみ、さらに総監督はワーグナーの子孫のみが務めるという伝統も特徴的です。劇場を建設する際のパトロンとなったのは、狂王とも云われるバイエルン国王であったルートヴィヒ2世(1845-1886)。時の権力者から資金援助を受けて建設された祝祭劇場は、ワーグナーの総合芸術の理念をかなえるべく古代ギリシアの円形劇場を模しており、華美な装飾はなく、観客を舞台に集中させるためオーケストラピットも舞台下の空間に設けられ独特の音響効果を生みだしているといわれています。1876年の第一回目の音楽祭は、ルートヴィヒ2世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム1世、ブラジル皇帝ペドロ2世といった王侯貴族や、リスト、ブルックナー、チャイコフスキーといった作曲家たちが観客に迎えられました。
ワグネリアンが世界中から集まる様は『ワーグナー詣』とも名付けられていますが、ワーグナーファンでなくとも、一度はその真髄に触れてみたいと思わせます。2020年は新型コロナの影響で中止を余儀なくされましたが、2021年夏には再び開催され、今年2022年は7月25日から9月1日までの開催が予定されています。ドイツが世界に誇る音楽祭。いつかは訪れてみたいものです。
参考HP
- Bayreuther Festspiele
https://www.bayreuther-festspiele.de/startseite
- バイロイト音楽祭 Wikipedia
- リヒャルト・ワーグナー Wikipedia
参考文献
- バイロイト音楽祭の100年 ジョフリー・スケルトン著 山崎敏光訳 音楽之友社 1976
- ドイツ文化事典 編集代表 石田勇治 丸善 2019
これまで【日本人からみると不思議なドイツ事情】、【ものづくりの国ドイツ】を担当してまいりました、HHです。京都生まれ。ドイツ・フライブルク大学卒。留学中に得た経験をもとに、独自のアンテナを張って様々な側面からみたドイツをお伝えしていきたいと思います!皆さまのドイツ文化に関する興味・関心、ブログの感想もぜひ聞かせて下さいね。
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