ドイツのオルガン文化

ドイツの街に必ずある建物といえば、キリスト教の教会や大聖堂ですが、教会から聴こえる美しく荘厳なパイプオルガンの音色は、ヨーロッパ文化の真髄を感じさせます。ドイツのパイプオルガンの建造技術とオルガン音楽は、2017年にUNESCOの無形文化遺産にも登録されました。ドイツには約400のオルガン工房と、2800人の従業員が存在し、国内のオルガン台数は5万台にものぼります。ドイツは、イタリアやフランス、オランダなどと並んで、独自のオルガン文化を誇っています。

パッサウ教会にあるドイツで一番大きなオルガン

 

 

楽器の女王 パイプオルガン

 

鍵盤、パイプ、そして音を生み出すパイプに風を送り出すふいご。複雑な構造を持つパイプオルガンは、『楽器の女王』(又は王)、『1台のオーケストラ』などと呼ばれるほど、その存在感は格別です。欧州諸国では主に、キリスト教の儀式、典礼、礼拝などに欠かせない存在ですが、その起源は紀元前265年のアレクサンドリア(現在のエジプト)で、クテシビウスによって発明された「水オルガン」が原型となっています。オルガンはその後、地中海、イベリア半島を経て、アルプスを越えヨーロッパ全土に広まり、時代と地域によってその構造や仕組みを多様に発展させました。

キリスト教化された欧州諸国では、中世以前は楽器を典礼に使用することは禁じられていましたが、9世紀に入り、聖歌隊の伴奏のために取り入れられると、13世紀末には多くの地域でオルガンを導入する修道院、大聖堂や教会が増え、神へ音楽を捧げるための神聖な楽器としての位置を確立しました。

 

ライプツィヒのトーマス教会にあるバッハ像

 

 

ドイツにおけるオルガン文化の発展

 

ドイツ国内では、16世紀のルターの宗教改革が、教会にオルガンが普及した大きな契機となりました。「音楽は神のことばを語る」という信念の下、ルター派の教会ではドイツ語による讃美歌(コラール)が積極的に歌われるようになり、オルガンにも更に重要な意味が与えられ、ルター派の礼拝には必需品となりました。ルターはプロテスタントの教会音楽の基礎を築き、プロテスタントの多い北ドイツからは「北ドイツ・オルガン楽派」といわれる教会音楽家及びオルガン奏者らが輩出され、ドイツ独自のオルガン文化の発展に貢献しました。

一方、カトリックの多い南ドイツ地方では、国際色豊かなカトリック文化圏に属し続け、イタリアやフランスの音楽をドイツに伝える役目を担ったとも云われています。

更には、バロック音楽の代表的な作曲家であり、ルター派の教会音楽を大成させたJ.S.バッハ(1685-1750)は、ラテンの対比法とゲルマンの旋律を融合させ、ドイツのオルガン文化の黄金期を形成しました。

 

ドイツでは、オルガン文化を後世に伝えるための制度も充実しています。オルガン建造家(英:Organ builder/独:Orgelbauer)になるための職業訓練制度があり、徒弟らは、その技術と製作法を学び、マイスター資格を目指しています。また、音楽大学には教会音楽科があり、教会音楽家の資格を取得可能で、オルガン奏者や教会音楽家の育成に貢献しており、包括的なひとつのオルガン文化を形成しています。

 

荘厳なオルガンの音色を聴くと、キリスト教徒でなくとも神聖な気持ちになりますね。


参考HP

 

参考文献

  • 秋元道雄著『パイプオルガン 歴史とメカニズム』 ショパン 2002
  • 松居直美・廣野嗣雄・馬淵久夫編著 『オルガンの芸術 歴史・楽器・奏法』道和書院 2019
  • 岩波キリスト教辞典 大貫隆他編 岩波書店 2002

 

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