ドイツの川② ドナウ川
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父なるライン、母なるドナウと表現されているように、ドナウ川もドイツを代表する河川のひとつですが、その長さはライン川(1230キロ)の倍以上の約2900キロにも亘り、10ヵ国もの国々を流れ、黒海に注ぐヨーロッパ随一の国際河川です。ライン川と同様、経済産業を支える行路でありながら、その美しさから、様々な芸術作品のモチーフにもなっています。
大河ドナウの源泉 ドナウエッシンゲン
南北に流れるラインとは対照的に、西から東へと流れるドナウ川。中欧から東欧諸国へと流れるこの川は、ドイツ、オーストリア、スロヴァキア、ハンガリー、クロアチア、セルビア、ブルガリア、ルーマニア、モルドヴァ、ウクライナの10ヵ国にも亘り、古くから重要な航路とされてきました。2900km近くある川の長さのうち、ドイツ国内の流域は647kmと、10か国内で一番多くを占めています。
そのドナウ川の源泉は、南西ドイツ、黒い森にある小さな町、ドナウエッシンゲンにあると言われています。この地の領主である貴族、フュルステンベルク候の居城内であった庭園にある泉は、今日では観光名所ともなっており、歌人の斎藤茂吉も、ドイツ留学中にこの地を訪れており、泉の傍らには茂吉の歌碑も掲げられています。しかし、地理学的見解からみると、ブレーク川とブリガッハ川の合流点が厳密な源泉とされるため、ドナウエッシンゲンから少し離れたフルトヴァンゲンが源流という見方もあります。
ドイツに現存する最古の石橋が架かるレーゲンスブルクの旧市街地
歴史深きドナウ川流域の都市
バーデン=ビュルテンブルク州のドナウエッシンゲンを源泉とするドナウ川は、ジグマリンゲン、ウルムを越えると、バイエルン州に流れ込みます。インゴルシュタット、レーゲンスブルク、そしてオーストリアとの国境町パッサウへと続いています。いずれの町もドナウ川の恩恵を受けていますが、なかでもドナウ川とレーゲン川の合流点近くのレーゲンスブルク、そしてドナウ川、イン川、イルツ川の三川が合流するパッサウの両都市は、中世には政治的文化的中心地としてキリスト教の司教座が置かれる都市としても栄えていました。パッサウにおいては、13世紀の文学作品『ニーベルンゲンの歌』の舞台のひとつにもなっており、ドナウ川流域の豊かな文化が垣間見えます。
ドイツを越えると、オーストリアはリンツ、ウィーン、スロヴァキアのブラティスラヴァ、ハンガリーのブダペスト、セルビアのベオグラードといった主要都市へと流れています。黒海に流れ込む河口域においては、ドナウデルタと呼ばれる三角州があり、多種多様、貴重な動植物が生息するため、世界遺産にも登録されています。
古代ギリシアの叙事詩人ヘシオドスの『神統記』にも言及されているドナウ川。冷戦時代には、西欧諸国とロシアを分断する河川でもありましたが、今日は、EUの要路ともなっており、ライン川とは異なる歴史と文化が築かれています。
参考HP
参考文献
- 加藤雅彦 ドナウ川紀行 東欧・中央の歴史と文化 岩波新書 1991
- 丹下和彦・松村國隆編 ドナウ河 流域の文学と文化 晃洋書房 2011
- 柏木貴久子・松尾誠之・末永豊 南ドイツの川と町 三修社 2009
これまで【日本人からみると不思議なドイツ事情】、【ものづくりの国ドイツ】を担当してまいりました、HHです。京都生まれ。ドイツ・フライブルク大学卒。留学中に得た経験をもとに、独自のアンテナを張って様々な側面からみたドイツをお伝えしていきたいと思います!皆さまのドイツ文化に関する興味・関心、ブログの感想もぜひ聞かせて下さいね。
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