ドイツの川① 父なる川 ライン
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ドイツの国境は9ヵ国に囲まれており、海があるのは北ドイツに面する北海とバルト海だけです。海はあまり身近な存在ではありませんが、有名かつ重要な川はいくつか存在します。森がドイツ人の精神性に深く根付いている一方で、ドイツ人にとっての川の存在と意味も見逃すことはできません。歴史的にみると、ときに国境線として争いの場にもなり、また、経済産業を支える重要な役割も果たしてきました。
今回はドイツを流れる川の中でも、最も重要といわれているライン川についてお伝えします。
ライン川とは
全長1233 km、スイスアルプスを源流に、リヒテンシュタイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダを流域とするライン川は、南北ヨーロッパの大動脈ともいわれるほどに、ドイツのみならず中央ヨーロッパの経済においても重要な航路とされてきました。ドイツ国内を流れているのは698 kmにわたりますが、その美しさから、ゲーテ、ハイネやヘルダーリンなど多くの詩人たちのモチーフにもなり、ドイツ人の精神性を支える情景でもあります。ハイネ作の岩山に住む精霊ローレライの詩は有名ですね。
マインツからコブレンツ間の65 kmは、ライン下りでも有名で、沿岸部には中世期に諸侯たちが通行税を徴収するための城塞をこぞって築きました。今日でも30余りの古城が立ち並ぶ景色は素晴らしく、2002年には世界文化遺産にも登録されており、ドイツ国内でも随一の観光名所でもあります。
ドイツ人と父なるライン川
古くはローマ帝国の国境線でもあり、ゲルマン人との攻防戦が繰り広げられた場所でもあるライン川沿岸地域。バーデン=ビュルテンブルク州流域は、フランスとの国境でもあり、川を挟んで領土の奪い合いが度々起こった争いの場でもありました。
また一方では、充実した内陸水路と豊富な地下資源により、石炭、鉱石、建築資材、石油といった物資の運搬流通、そして工業用水としても使用され、ドイツの工業を支えてきました。ドイツの政治、経済、文化はライン川抜きに語ることはできないほど、重要な存在であることがわかります。このことから、ライン川は『父なるライン川』と称されるのでしょうか?ここにはちょっとした言語史的かつ文化的な背景があるようです。
ドイツ語では、ライン川やドナウ川などの河川の固有名詞にも、ドイツ語の特性である性が割り当てられており、ライン川は男性名詞(Der Rhein)、ドナウ川は女性名詞(Die Donau)ですが、ドイツ語の川の名はほとんどが女性名詞で、男性名詞は限られています(Der Necker, der Innなど)。元来、川は神々の化身と信じられており、ラインの語源であるRhenusは、擬人化された男性の神の名前であり、全ての精霊と川の父と伝承されてきました。これに加えて、19世紀のドイツのロマン主義者たちは『父なるライン川』という表現を好んで使ったため、『ドイツにおける父なるライン川』という概念が定着したともいわれています。
緩やかな流れが特徴的なドイツ圏のライン川ですが、2021年7月には大雨による大規模洪水が発生しました。被害が最も大きかったアールヴァイラー郡は、ライン川の左支流であるアー川(Die Ahr)が流れている地域でもあります。10年に一度という規模の水害であったようですが、美しいライン川流域の町々の逸早い復興を願うばかりです。
参考HP
参考文献
- 小塩節 ライン河の文化史 講談社学術文庫 1991
これまで【日本人からみると不思議なドイツ事情】、【ものづくりの国ドイツ】を担当してまいりました、HHです。京都生まれ。ドイツ・フライブルク大学卒。留学中に得た経験をもとに、独自のアンテナを張って様々な側面からみたドイツをお伝えしていきたいと思います!皆さまのドイツ文化に関する興味・関心、ブログの感想もぜひ聞かせて下さいね。
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