ドイツで通じないオーストリアドイツ語Austriazismus

 

ドイツ語が使われている国は数カ国ありますが、実は同じ言葉なのに国によって大きな違いがあります。皆さんはもうご存知かと思いますが、やはりドイツ語にはバリエーションが多いのです。各国、各地域にそれぞれ自分たちの方言があります。しかしそれによって誤解が生じる事も珍しくありません。

私が身をもって体験した事件をご紹介しましょう。ドイツとオーストリアのどちらの国にも高校卒業試験があります。この試験は大学に進学するための資格試験です。ドイツでは「アビトゥーア」(Abitur)と言いますが、オーストリアでは「マツラ」(Matura)と言います。オーストリアでは高校卒業試験が大体6月にあります。私は試験を受けた後でハンブルグの家族に会いに行きました。ガーデンパーティーで家族のドイツ人の知り合いと話したときに「マツラに合格しました!」と自慢しましたが、相手のドイツ人は私が一体何に合格したのか全く理解できませんでした。なんか変な言葉を使ってしまったみたいな気持ちになって恥ずかしかったです。

方言は別にして、オーストリアドイツ語とドイツのドイツ語の間には、文法はあまり違わなくても、使う単語に大きな違いがあります。これは「オーストリアツィズムス」 (Austriazismus)と言って、つまりオーストリアだけに存在している独自のドイツ語表現です。ネットで調べると「ドイツ人が分からないオーストリアドイツ語の10単語」というリストがたくさん出てきます。ウィキペディアページさえあります。

オーストリアドイツ語の例

 

上で挙げた「マツラ」と「アビトゥーア」はその一例にすぎません。このような日常的によく使われているオーストリア独自の単語は多数ありますので、今回からちょこちょことオーストリアツィズムス(オーストリア表現)をご紹介したいです。

「サッケル」と「ガッケル」

 

まず最初にご紹介したいのは「袋」です。私の中で「袋」こそは、ドイツ人かオーストリア人かを判断するにはもってこいの単語です。ドイツでは買い物してレジで支払う時は「テュー テ」(Tüte)は要りますか?」と聞かれます。しかしオーストリアでは袋は「サッケル」(Sackerl)と言います。

 

オーストリアツィズムスが表れている有名な例は、ウィーン市の『ニム アイン サッケル フュール マイン ガッケル』(Nimm ein Sackerl für mein Gackerl)という標語を使った行政の取り組みです。日本語に翻訳すると『私のウンチを片付ける袋を持って!』となります。つまり犬のウンチを片付けましょう!という市の呼びかけです。日本では道に犬のウンチが落ちている事はあまり見かけませんね。ウィーンではよく見かけてしまいます。犬を飼っている人が多くて、ウンチを片付けない飼い主も多いです (Stadt Wien)。そのためウィーンの市役所は人が犬とよく散歩する場所に無料の袋ディスペンサーを設置する取り組みを開始しました。「ガッケル」はウンチに対してちょっと可愛いい言葉です。似ている「ガッキ」(Gacki)は子供のウンチに使われる言葉です。愛犬のフンのための袋に限らず、オーストリアではプラスチックや紙や布の袋でも「サッケル」と言います。

「シティゲ」

 

「テュー テ」でも「サッケル」でもドイツ人とオーストリア人がイメージする対象は同じもの(袋)だと思いますが、「階段」という言葉についてはそうではないようです。オーストリアでは「階段を上がる」なら、「シティゲ」(Stiege)を上がる」と言います。一方ドイツでは「階段」に「トレッペ」(Treppe)という単語が主に使われています。ドイツで「シティゲ」と言えば、梯子のような狭くて急な木の階段を想像している人が多いと思います。

食べ物に関してオーストリア独自の表現

 

他にも調べると、特に食べ物に関してオーストリア独自の表現が多くあります。ところが、オーストリアが1995年に欧州連合に加盟する時、オーストリアドイツ語の取扱いが問題となり、食品名23語についてはEU内の公用語であるドイツのドイツ語と共に使用されなければならないとされ、これら23語につきオーストリアドイツ語単語のリストが定めらました。この23食品を扱う法律行為では両方の単語を表記しないといけない決まりです。このリストの中のいくつかをご紹介します。

ジャガイモはドイツでは「カルトフェル」(Kartoffeln)ですが、オーストリアでは「エルドエップゥル」 (Erdäpfel) になります。ひき肉はドイツのように「ハックフライシュ」(Hackfleisch)ではなく、「ファシルテス」 (Faschiertes)と言います。私の大好きな杏はドイツでは「アップロコセ」(Aprikose) ですが、オーストリアでは「マリレ」(Marille)です。そして日本でもよく食べられるナスはドイツでは「オベルシーネ」(Aubergine)と言い、オーストリアでは「メランザニ」 (Melanzani) という言葉を使います(Europäische Kommission)。

上の例が示すようにオーストリアで使われている言葉には、ドイツとは完全に違う単語がたくさんあります。とはいえ、現代は異文化交流が強く、特に若者がSNSでドイツのドイツ語を聞く機会が増え、だんだんとオーストリアドイツ語が変化し、ドイツのドイツ語と融合してしまうという考え方があります(Der Standard)。しかし最近はオーストリアのドイツ語と方言を活かしたバンドやアーティストが人気になる事にも気づきました。これについては次回のテーマにしましょう。

Baba und bis bald!

Schmankerl


参考文

 

 

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