連邦都市ベルン
目次
皆様、お元気ですか?私が「ちょっと知りたいスイス」を担当することになってから様々な内容をご紹介させていただきましたが、未だにアイガー・メンヒ・ユングフラウなどの名山が聳える、スイスを代表するベルン州(Kanton Bern)については一度も触れていないことに気付きました。
正直に申し上げますと、スイスを訪れたことのある方であれば必ずご訪問されており、今更話題にしても面白くないと勝手に思い込んでいました。
しかし、馴染みのあるものとはいえ、意外と知らない部分もあるのではないかと感じましたので、今回はベルン州の州都であり、スイス連邦の首都でもあるベルンをご紹介させていただきます。
小さな集落からアルプス以北最大の都市国家へ
ベルンの名はその都市を開いたツェーリンゲン家のベルヒトルト5世(Berchtold V. von Zähringen)が、狩りで最初に仕留めた動物が熊だったことからドイツ語で熊を意味する「ベアー」(Bär)に因んでつけられたと言われますが、実はケルト民族の呼び名であった「ベルナ」(Berna)に由来するという説が最も有力とされています。
したがって、現在のベルンが建っている場所には紀元前から集落が存在し、ローマ帝国もまた同じ場所に小さな集落を築いていました。
その後も居住地として利用されてきましたが、ベルンが町となったのは前出のツェーリンゲン家が、1191年に都市計画を行ってからです。
しかし、ツェーリンゲン家はその直後に衰退し、ベルンは代官のいない町になったため、1218年に帝国直轄領に指定されます。
これをきっかけにベルンはハプスブルク家を始め、周辺を支配していた貴族達に度々征服される危機を迎えましたが、アイトゲノッセンシャフトと友好条約を結んだこともあって、征服されるどころか自らその領土を拡大し始めます。
そして、友好条約を永久的に更新する決意を基に、ベルンは1353年に7番目の州としてアイトゲノッセンシャフトに加盟します。
その後は土地の購入や帝国の封土管理者に市民権を与え、周辺地域を支配下に置き、都市国家としての地位を確立すると同時に大規模な領土の拡大を図ります。
そのため、ベルンは16世紀初頭に現在スイスのフランス語圏の大部分や後に別の州の管理下に置かれることになった地域を併合しており、アルプス以北で最大の都市国家とも呼ばれていました。
世界文化遺産に指定されている旧市街
ベルンは元々アーレ川(Aare)がヘアピンカーブを形成していて、最大50メートルの高さにまで達する河谷を自然の要塞として利用して建てられました。
そのため、現在の旧市街を囲む地形に一目を置きますが、建設当初の街並みが残る旧市街そのものにも心を奪われます。旧市街は1983年にユネスコ文化遺産に登録され、その大きな要因は路地や建物を含め、街の大半が昔と変わらない姿で現存していることです。
特に、建造物の2階以上の部分をはみ出させることで造られた1階のアーケード(Laube)は見た目もおしゃれだけでなく、雨の日でも濡れずに移動を可能にする機能性まで備えています。
これはツェーリンゲン家の都市建設の重要な要素で、同家が築いた全ての町に存在します。しかし、それが数キロ単位で現存しているのはベルンのみなのです。
さらに、ベルンはアーケード以外にもうひとつ特徴的なものがあります。
それはアーケードの外の道路に面している地下室です。これは市民が日常生活を送る上で、食糧庫として使えるようにという思いを込めて、町を建設した際に整備されたのです。
都市が完成してからでは交通や生活に支障をもたらしますし、文化遺産にまで指定されると例え需要があってもこのような増築はなかなかできないので、私自身は「昔の人はいろいろと考えたな」と感心する一方です。
それらの地下室は現在も倉庫として利用可能なのですが、都心部の道路脇沿いに位置するだけあって、貸し店舗となっていることが多いです。
そのため、知らない人は少し薄気味悪いと感じながら避けようとするでしょうが、実は雑貨店やブティックを初め、バー、ギャラリー、そしてライブハウスなどが入っており、他では決して味わえない独特な雰囲気でお買い物やお酒を楽しむことができるのです。
噴水の都市
ベルンの旧市街を歩くと、所々に噴水が設置されていることに気付きます。
現在はその必要性も低く、さほど注目もされないのですが、実はベルン市内だけで100台前後の噴水が点在していることから、単なる装飾にしては数があまりにも多すぎます。
当然ながら、水は生きていく上で不可欠なものですので、ベルンでは既に13世紀に生活用水として利用できる貯水槽が建てられており、14世紀前半にはそれらが噴水に改造されました。
しかも、それらはなんと19世紀後半に民家に水道設備が普及するまで上水道の役割を果たし、飲料水や防火水としても使用されていたのです。
また、16世紀以降は噴水マイスター(Brunnenmeister)と呼ばれる役職まで設けられ、現在の水道局に当たる水道設備の整備・点検・修理を担当していました。
こういった点でもベルンが如何に市民の生活を重視して都市計画を進めてきたかが窺えます。
噴水の中でも特に目を引くのが比喩的な人物の彫像が施されている11個のフィギュア噴水(Figurenbrunnen)です。
それらは16世紀半ばに活躍した彫刻家の作品で、「正義」・「知恵」・「勇敢さ」など当時の市民の価値観を表現しています。
ただし、コルンハウス広場(Kornhausplatz)に建っている子供喰らいの噴水(Kindlifresserbrunnen)に設置されている、複数の子供を飲み込む化け物を描いた1体は他のフィギュアと異なり、とても恐ろしく、子供なら誰でも怯えてしまいそうな姿になっています。
その意味に関しては諸説ありますが、「子供は行儀良くしなさい」といった教育的な効果を狙ったのではないかと思われます。
ベルンは「首都」ではなく「連邦都市」!
既に申し上げたように、ベルンはスイスの首都として知られていますが、正確に言いますとスイスには首都がないのです。
実は、スイスでは1803年以降、ひとつの州に優位性を持たせないため、各州の代表による議会を開催する場所をローテーション制に変えるようにしていました。
しかし、1848年にスイスが連邦となった際、その制度を廃止し、首都の設立に関する議論が行われました。
そこで、首都の必要性を疑問視する声や、特定の州の管理下に置かれていない特別自治区を設立する案も出されましたが、最終的にベルン、チューリッヒ、ならびにルツェルンの3カ所が候補に挙がりました。
チューリッヒにおいては高い経済力が評価されましたが、政治力まで持たせることで権力が1カ所に集中することが懸念されました。
また、保守的なルツェルンはそもそも近代国家と連邦憲法に関して否定的な人が大半を占めていたので国家の今後の安定と運営に影響を及ぼすと思われました。
したがって、インフラがほとんど整備されていないにも関わらず、政府が必要とする土地を無償で提供することを約束したベルンが投票で過半数を得ることになったのです。
しかし、スイス連邦憲法第108条にはベルンを「連邦行政機関の所在地」としか定めていないので、ベルンは事実上首都であっても法律上の根拠は一切存在しません。
そういう経緯からベルンはスイス人の間でも日常的に「首都」と呼ばれていますが、政治家を初め、新聞やニュースでは「ブンデスシュタット」(Bundesstadt)、即ち「連邦都市」の名称が使われます。
さて、ベルンに関するご紹介は如何でしたか?
ベルンがブンデスシュタットであるとご存じなかった方やベルンを首都と思い込んでいた方も多いと思いますが、これでやっとスッキリできたのではないでしょうか?
とはいえ、せっかくオシャレな町ベルンを訪れる機会があれば、そんな細かいことはさて置いて、ベルンの数々の魅力に触れていただきたいですね。
今回は色々な内容を挙げさせていただきましたが、ベルンにはまだまだ興味深い点や好奇心をくすぐるものがたくさんあります。
また、ガイドブックなどに掲載されない素晴らしさも持っていますので是非ご自身で発見してみてください。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
衰退する | niedergehen
(ニーダーゲーエン) |
nidergah
(ニデルガー) |
地下室 | Keller
(ケッラー) |
Chäller
(ヘッレル) |
日常生活 | Alltagsleben
(アルタークスレーベン) |
Alltagsläbe
(アルタクスレベ) |
噴水 | Brunnen
(ブルンネン) |
Brunne
(ブルンネ) |
貯水槽 | Zisterne
(ツィステアーネ) |
Zischterne
(ツィシュテルネ) |
上水道 | Wasserversorgung
(ヴァッサーフェアーソーグング) |
Wasserversorgig
(ヴァッセルフェルソルギグ) |
正義 | Gerechtigkeit
(ゲレヒティヒカイト) |
Grächtigkeit
(グレフティクカイト) |
化け物 | Monster
(モンスター) |
Monschter
(モンシュテル) |
子供 | Kind/Kinder
(キント/キンダー) |
Chind/Chinder
(ヒント/ヒンデル) |
無償 | kostenlos
(コステンロース) |
choschtelos
(ホシュテロース) |
参考ホームページ
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
Comments
(0 Comments)