スイスとワンちゃん
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スイスを訪れたことのある方なら必ず気付いたと思いますが、スイスはどこへ行ってもワンちゃんを連れている人が目立ちます。
最初は「犬を散歩に連れている」にしか見えないでしょうが、次第にそれが単なる散歩ではなく、「犬が普段から飼い主と行動を共にしている」との見方に変わります。
例えば、レストランで食事をしている時や電車に乗っている際でも椅子の下にワンちゃんがいたり、繁華街や駅構内でもワンちゃんが当たり前のように歩いていたりするのを目撃することは決して珍しくありません。
特に犬好きな方であればそのような光景に必ず目が行き、羨ましがるのではないでしょうか?ということで、今回は「スイスとワンちゃん」と題して、スイスの犬に関するネタをご紹介いたします。
全ての始まりは動物愛護から
ワンちゃんの行動範囲が限られている日本と違って、愛犬をどこへでも連れていくことが可能なのは、スイスがルーズで法的規制が存在しないからではありません。
むしろ、犬の飼育に関する法律は日本よりも厳しく、飼い主としての自覚に対する要求も高いのです。
その代表例とも言えるのが、飼い主にワンちゃんの飼い方および躾を学ぶレッスンの受講を義務付けている法律です。
これは以前まで全国的に有効だった制度なのですが、2017年をもって廃止され、現在は一部の州の規制に含まれているだけですので、限定した範囲でのみ適用されています。
つまり、スイスでは飼い主も愛犬もそれなりの教育を受ける代わりに、ワンちゃんを社会の一員として認め、それに応じた自由を与える政策を整えていた訳です。
しかも、犬を躾ける背景には「人を噛まない」や「勝手に道に飛び出さない」などの安全対策もありますが、その最大の理由はルールを守ることで秩序を維持すれば行動の制限が不要になるといった動物愛護の発想なのです。
即ち、子供をしっかり教育して責任感のある社会人に育てることと一緒なのです。
また、動物は違反行為を行った際、自ら弁解することができないため、スイスでは起訴された場合に弁護人がその代理を務める必要があると定めている法律まで存在し、それを専門とする動物弁護士まで存在します。
このように、きちんとしたルールを制定することでワンちゃんに対する規制は最小限に抑えられるのです。
スイスを代表する犬種セント・バーナード犬
そんな動物愛護を大切にしているスイスですが、小国ながらも実は複数の犬種がスイスを発祥としていることはご存知でしたか?
はい、そうです。スイス原産の犬と言えばやっぱり「アルプスの少女ハイジ」に登場する「ヨーゼフ」でお馴染みのあのセント・バーナード犬(St. Bernhardinerhund)です!
とは言え、この犬種が世界的に有名になった理由はヨーゼフではなく、救助犬バリー(Barry)の影響が最も大きいでしょう。
既に知っている方もいると思いますが、バリーは19世紀初頭に実在した、ヴァリス州(Kanton Wallis)南西部の峠にある修道院で雪崩の被害にあった人を捜索・救助する目的で飼育されていた犬です。
40人以上の命を救った実績を残した極めて勇敢な犬であったことが話題性を呼び、バリーの生涯は複数の書籍や映画を通して世界中で知られるようになりました。
バリーを飼っていた修道院は17世紀以降、救助犬を育てる目的で数多くのセント・バーナード犬を飼育してきたため、修道院の所在地であるグローサー・サンクト・ベルンハルト峠(Grosser Sankt Bernhard)が当該犬種の正式名として定着するようになったと言われています。
因みに、バリーに関してもそうなのですが、セント・バーナードの救助犬は首に小さな樽をぶら下げている姿で描かれていたり、写真に写っていたりすることが多いので、日本でもセント・バーナード犬イコール樽の付いた首輪のイメージを持っている方も少なくないでしょう。
しかし、実際の救助犬は樽をぶら下げていたことは一度もなく、長きにわたってセント・バーナード犬を飼育してきた修道院も樽はインパクトを与えるために誰かが作った事実無根のネタであると主張しています。
牧人の相棒センネンフント
セント・バーナード犬以外にもセンネンフント(Sennenhund)というスイス原産の犬があります。
セン(Senn)は牧人を指し、フント(Hund)はドイツ語で犬であることから、センネンフントはその名の通り「牧人犬」を意味します。
これはアルプスで牛や羊などを放牧する際に飼い主に付き添って見張りなどのお手伝いをしていたことに由来しますので「シェパード」などのように大人しくて人懐っこい性格を持っている犬です。
また、猟犬と異なって外見も可愛らしく、農業が盛んなスイスでは作業犬としての需要も高かったため、センネンフントは現在もスイス全国で頻繁に見かける犬種のひとつです。
そんなセンネンフントは黒、茶、白の3色で構成される外見が特徴的で、大きく分けてグローサー・シュヴァイツァー・センネンフント(Grosser Schweizer Sennenhund)、ベルナー・センネンフント(Berner Sennenhund)、アッペンツェラ―・センネンフント(Appenzeller Sennenhund)、およびエントレブーハー・センネンフント(Entlebucher Sennenhund)の4種が存在します。
それら4種は見た目が非常に似ていますが、大・中・小と大きさが異なることから、それぞれを身長で見分けることができます。
さらに、グローサー・シュヴァイツァー・センネンフントとベルナー・センネンフントはどちらも大型で身長による見分けは難しいのですが、本来のセンネンフントは毛が短いのに対して、ベルナー・センネンフントのみがコートの毛がフサフサになっている点が他の3種との大きな違いです。
さて、今回はスイスとワンちゃんについてご紹介させていただきましたが、如何でしたか?
ご自身も犬を飼っている方であればご興味を持っていただけたのではないでしょうか?
逆に犬が苦手という方もスイスを訪れる際は今回の記事を参考にして、想像もしない場所でいきなりワンちゃんに遭遇する可能性があることを覚悟しておいてください。
しかし、スイスのワンちゃんは基本的に行儀が良くて温和なのが特徴的なので、怖がる必要は全くございません。
むしろ、見た目が少々ブサ可愛いセント・バーナード犬や何とも愛くるしいセンネンフントには自然と近づきたくなるものですので、見かけた際は是非可愛がってあげてください。
そして、今回は複数の犬種についても触れさせていただきましたが、スイス原産の犬種が他にもまだまだございますので、ご興味のある方は是非ご自身でも調べたり、スイス観光の際に探してみたりしてください。
例えば、全身の毛が真っ白なシェパード犬の一種であるヴァイッサー・シュヴァイツァー・シェーファーフント(Weisser Schweizer Schäferhund)は格好いいと同時に可愛らしさも備えているので私自身も個人的に大好きな犬種です。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
目立つ | auffallen
(アウフファレン) |
uuffallä
(ウーフファレ) |
飼い主 | Herrchen
(ヘルヒェン) |
Herrli
(ヘルリ) |
規制 | Einschränkung
(アインシュレンクング) |
Iischränkig
(イーシュレンキク) |
噛む | beißen
(バイッセン) |
biissä
(ビーッセ) |
弁護士 | Anwalt
(アンヴァルト) |
Aawalt
(アーヴァルト) |
捜索 | Suche
(スーへ) |
Suechi
(スエヒ) |
救助 | Rettung
(レットゥング) |
Rettig
(レッティク) |
小樽 | Fässchen
(フェッスヒェン) |
Fässli
(グリュエン) |
茶色 | braun
(ブラウン) |
bruun
(ブルーン) |
白 | weiß
(ヴァイス) |
wiiss
(ヴィーッス) |
参考ホームページ
- スイス連邦議会:動物愛護法
- スイス連邦内務省:愛犬の飼育について
- スイス連邦内務省:ペットの旅行・出入国について
- Tier im Recht(法における動物)財団
- バリー財団
- フランクフルター・アルゲマイネ新聞:グローサー・サンクト・ベルンハルト峠の修道院
- ドイツ・シュヴァイツァー・センネンフント協会
- ドイツ・シュュヴァイッサー・シュヴァイツァー・シェーファーフント連邦協会
スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
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