スイスの鉄道:アルプスを横断する鉄道レーティシェ・バーン

日本では駅のホームや線路沿いに立ち、写真撮影を行っている「鉄オタ」と呼ばれる鉄道マニアを頻繁に目撃しますが、新幹線をはじめ、鉄道界における様々な最先端技術を生み続けるこの日本ならではの鉄道オタク・カルチャーは実に興味深いです。

しかし、鉄道技術に関してはスイスも決して負けてはいません。皆様も既にご存知だと思いますが、スイスはユングフラウヨッホの頂上に列車を走らせるという前代未聞の発想を実現させたほど、高い技術力を持っており、鉄道界における数々の偉業を成し遂げました。

険しい地形が大部分を占めるアルプスに鉄道を通すこと自体がそもそも無謀なのかもしれませんが、やはり山を愛し、山と共存する民族であるスイス人はそれを実現しただけなく、その内容にまで拘り、完成度の高い数多くの鉄道を世に出してきました。

今回はそんなスイスを代表する鉄道のひとつであるレーティシェ・バーン(Rhätische Bahnをご紹介させていただきます。

 

1888年から魅力的な路線で山岳地帯を結ぶ鉄道

 

エル・ハー・ベー(RhB)の愛称でも知られるレーティシェ・バーンは1888年にオランダ人であるウィレム=ヤン・ホルスブール(Willem Jan Holsboer)がグラウビュンデン州(Kanton Graubünden)の鉄道パイオニアと共に山岳鉄道を造りたいという発想から始まりました。

そして、1年後にはその夢が現実となり、ラントクヴァルト(Landquart)からクロスタース(Klosters)までの路線が開通し、翌1890年には路線がダヴォス(Davos)まで延長され、蒸気機関車が往復するようになります。

その後、路線が徐々に拡張され、隣接する鉄道会社との合併も経て、スイス南東部に位置するグラウビュンデン州とティチーノ州(Canton TicinoまたはKanton Tessin)ならびに北イタリアを結ぶ現在の計384キロにも及ぶ鉄道網を運営する会社に発展しました。

創業当初は蒸気機関車を使用していたこともあり、2度の世界大戦や経済危機によって経営が苦しくなることもありましたが、レーティシェ・バーンは常に進化し続け、魅力的な路線でアルプスの名所を繋ぐことをモットーにしてきました。

 

「魅力的な路線でアルプスの名所を繋ぐ」を表現した2012年に関連駅で配布されたレーティシェ・バーンのパンフレット
「魅力的な路線でアルプスの名所を繋ぐ」を表現した2012年に関連駅で配布されたレーティシェ・バーンのパンフレット

 

アルプスの絶景と高度な鉄道技術の融合

 

冒頭でも触れたように、標高4000メートルを超える山が連なる山岳地帯であるアルプスに鉄道を通し、列車を走らせるためには強いチャレンジ精神をはじめ、高度な技術が要求されます。

そのため、レーティシェ・バーンも創業当初は限られたスペースでも斜面を乗り越えられる歯車状のラックレールやスイッチバックを使用することを検討しましたが、スイスの他の鉄道会社がそれらを使わずに成功している例を見て、狭軌を使用した粘着式鉄道を採用することにしました。

さらに、山谷の標高差にも上手く対応し、かつ列車を効率的に走らせるために多くの高架橋やトンネルを建設する方法を選択しました。

このようにして完成したのが数々の名山、氷河、湖、峠や景観などアルプスの絶景を電車に乗りながら一望できる鉄道レーティシェ・バーンなのです。

そして、その功績はレーティシェ・バーンのアルブラ線(Albula-Linie)およびベルニナ線(Bernina-Linie)が2008年7月にユネスコ文化遺産に登録されたことによっても高く評価されました。

中でもフィリスール(Filisur)とシュミッテン(Schmitten)を繋ぐラントヴァッサー橋(Landwasserviadukt)は多くのガイドブックにも掲載されるほど有名でレーティシェ・バーンのシンボルでもあります。

 

ラントヴァッサー橋を通過する列車
ラントヴァッサー橋を通過する列車

今回は鉄道好きが多い日本にも親しみやすい内容をご紹介させていただきましたが、レーティシェ・バーンは鉄道好きでなくても必見ですし、スイス観光には欠かせません。

といっても当該路線の沿線には大都市や定番の観光地がほとんどなく、限られた旅行期間では訪問先の候補から外してしまう方も少なくはないと思います。

そんな方にお勧めなのが、今年90周年を迎えるレーティシェ・バーンがマッターホルン・ゴットハルト・バーンと共同で運行している氷河特急としても有名なGlacier Expressです。

多くの方は既にご存知だと思いますが、氷河特急はサン・モリッツ(St. Moritz)とツェルマット(Zermatt)の距離を約8時間掛けて走り、アルプスの名所と絶景を手っ取り早く満喫できる列車なのです。

しかも、氷河特急の路線は世界遺産のラントヴァッサー橋があるアルブラ線も含みますし、ベルニナ線にも直結していますので、スイスを訪れる際は是非一度ご乗車してみては如何でしょう?

では、

Bis zum nöchschte mal!

Birewegge


今回の対訳用語集

 

日本語 標準ドイツ語 スイスドイツ語
アルプス Die Alpen

(ディー・アルペン)

D’alpe

(ダルぺ)

鉄道 Eisenbahn

(アイセンバーン)

Isebahn

(イセバーン)

偉業 Errungenschaft

(エアルンゲンシャフト)

Errungäschaft

(エルルンゲシャフト)

険しい地形 Steiles Gelände

(シュタイレス・ゲレンデ)

Schteils Gländ

(シュタイルス・グレント)

拡張 Erweiterung

(エアヴァイテルング)

Erwiiterig

(エルヴィーテリク)

創業 Gründung

(グリュンドゥング)

Gründig

(グリュンディク)

蒸気機関車 Dampflokomotive

(ダンプフロコモティーフェ)

Dampfloki

(ダンプフロキ)

ラックレール Zahnradbahn

(ツァーンラートバーン)

Zahradbahn

(ツァーラートバーン)

スイッチバック Spitzkehre

(シュピッツケーレ)

Spitzcheeri

(シュピッツヘーリ)

Brücke

(ブリュッケ)

Brugg

(ブルック)


参考ホームページ

 

 

Comments

(0 Comments)

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA