ものづくりの国ドイツ 2 職人への道
前回の「ものづくりの国ドイツ」では自動車の誕生についてお届けしました。自動車産業はドイツを、まごう事なき工業大国へと成長させた立役者といえますが、ドイツ特有の職人育成制度である「マイスター制度」も大きく貢献しているといえるでしょう。ドイツも日本も、ものづくり大国といわれ、また職人による伝統と技の継承を重んじできた点でも共通点が見いだせます。このマイスター制度について今日はご紹介します。
ドイツ人のDIY根性
職人の国といわれるドイツですが、そもそもドイツ人は、何でも自分で作ってしまうDIY精神に溢れているように思えます。車の修理や電話回線の増設、家具を自分で作ったり、さらには庭に小さな家まで自前で作っている人々を見たこともあります。もちろんプロではない、普通の人々の話です。このことはドイツのホームセンターの多様な品揃えを見てもわかります。既製品に甘んじることなく、自分にとって居心地の良い空間を、自分自身の手で作り出すというのは、とても「ドイツらしい」印象を受けます。
「マイスター」への道、デュアルシステム
老若男女、修理・工作が得意なドイツ人ですが、プロフェッショナルなものづくりの職人世界においては、高い技術力を持った人材を育てる独自の職業訓練制度が充実しています。マイスター(Meister)という言葉は、親方、職匠、名人などを意味しますが、日本でも認知度が上がってきたドイツ語のひとつではないでしょうか。このマイスターは、ドイツでは国家資格のひとつで、手工業、工業、商業、農業、家屋管理などの多種多様な分野でのプロフェッショナルを指します。技術開発能力のみならず、後継者育成のための教育力、経営力も求められるマイスターですが、取得への道のりは長いです。
以前の記事でドイツの教育制度についてお伝えしましたが、ドイツでは初等教育の終わる10歳で、大学進学を目指すか、職能教育の道へ進むかを選択します。職人の道を目指す場合は、基幹学校か実科学校を卒業したのちに、見習い工(レーアリング・Lehrling)として職業訓練(アウスヴィルドゥング・Ausbildung)できる雇用先を探し、弟子入りして、国家資格ゲゼレ(Geselle・熟練工、職人)の取得へと励むのが第一歩となります。職業訓練の期間は業種によって異なりますが、およそ2年から3年半といわれており、また、職業訓練の傍ら、職業訓練学校で理論を学びます。これが、職業訓練におけるデュアルシステムという制度で、近年では国際的に高く評価されており、日本では、厚生省がものづくりマイスター制度(若者技能者人材育成等支援事業)という名でドイツをモデルにした制度を立ち上げ、若年層の技能者育成を推進しています。
職業訓練を終え、ゲゼレの国家資格を習得した後に、さらなる高等職業学校(ファッハオーバーシューレ・Fachoberschule)で2年以上の教育を受けることでマイスター試験の受験資格を得て、マイスター試験にパスするとマイスターの称号が与えられます。この厳しい職人育成制度により、たしかな技術が次の世代へと引き継がれ、ドイツの工業は安定的に発展してきました。そして今日では第四次産業革命といわれるインダストリー4.0によるデジタル化とマイスターとの協同提携が推奨されており、彼らは新しい産業技術のユーザーでありパートナーとして期待されています。伝統と革新を両立するドイツ工業の底力を感じます。
参考HP
https://megimigi.blog.so-net.ne.jp/2015-03-03
http://www.newsdigest.de/newsde/features/8887-meister-keywords/
https://bizhint.jp/keyword/62683
https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2009_6/german_01.html
https://www.deutsche-handwerks-zeitung.de/altmaier-ausweitung-der-meisterpflicht-noch-in-diesem-jahr/150/3094/385227
https://www.bag-elektrometall.de/pages/FT2016/praesent/ws1_spoettl.pdf
これまで【日本人からみると不思議なドイツ事情】、【ものづくりの国ドイツ】を担当してまいりました、HHです。京都生まれ。ドイツ・フライブルク大学卒。留学中に得た経験をもとに、独自のアンテナを張って様々な側面からみたドイツをお伝えしていきたいと思います!皆さまのドイツ文化に関する興味・関心、ブログの感想もぜひ聞かせて下さいね。
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